アインクラッド 前編
虚構から現実へ
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
マサキが芝の上で長考に入ってから数分の時が流れ、キリトとクラインの言動にも焦りと苛立ちが見え始めたころ、それまで静寂さを保っていた草原に、突然教会の鐘らしき重厚な音が響き渡った。
キリトとクラインは飛び上がり、マサキはゆっくりと目を開けると、自分の体を覆う青い光の柱の存在を確認し、程度の差はあれど、顔を驚愕の色に染める。だが、マサキは視界に映る草原が薄れていくのに気がつくと、この現象を運営側による強制転移だろうと推測し、青の光の中で表情を引き締めた。
視界が回復したマサキが辺りを見回すと、そこは紛れもなくゲームのスタート地点であり、マサキたちが一番初めに降り立った、《始まりの街》中央広場だった。しかも、そうしている間にも青い光の柱はそこかしこに出現し、それらが全てプレイヤーへと姿を変える。出現のペースと今既にこの広場にいる人数から、このままではじきにこの広場は人で埋め尽くされるだろうと考えたマサキは、あまりの驚きに立ち尽くしているキリトとクラインを一瞥すると、一人近くのベンチに腰掛け、徐々に苛立ちを帯びてくる喧騒の中で、やがて起きるであろう異変を待った。
「あっ……上を見ろ!!」
誰かがそれまで広場を包んでいた喧騒を押しのけて叫び声を上げると、広場にいた全員が視線を頭上に集中させた。すると、それまでオレンジ色の夕焼けが投影されていた場所が全て真紅に染まり、さらにその上から赤いフォントで【Warning】、【System Announcement】の単語が表示されたかと思うと、広場中央の空から紅い液体がその粘度の高さを誇示するかのようにどろりと滴り、突如空中で中身のない赤ローブへと姿を変えた。
その“異形”という言葉ではお釣りがくるくらいに突飛な外見に、それまでアナウンスを聞こうと耳をそばだてていた観衆が、再び一気に疑問の声を上げる。赤ローブはその声が直接届いたかのように右袖を動かすと、低く落ち着いた声で話し始めた。
『諸君、私の世界へようこそ』
マサキがその言葉を聞いた途端、彼の脳裏で“私の世界”という単語が前日に受け取ったメールの中身と完璧に一致し、それと同時に既に予測済みだった赤ローブの正体が確定する。
マサキは知り合いであり、同業者でもある男の趣味の悪さに一瞬頭を抱えるが、すぐに気を取りなおすと、彼が言葉を紡ぐのを待った。
その後、赤ローブは自分が茅場晶彦であることを明かし、このゲームから抜け出し、再び現実世界の土を踏むためには、このゲームをクリアするしかない、ということをいかにも事務的な口調で説明し、その度にプレイヤーたちのどよめきが広場を包み込む。
――たった一人、広場のベンチに座ったままのマサキを除いて。
マサキは表情を保ったまま、茅場の発言に耳を傾けてい
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ