アインクラッド 前編
虚構から現実へ
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にマサキの表情を崩すほどのことはなく、マサキの予測通りの話が続いた。
だが、マサキには一つ、気になる点があった。いくら“現実の死”の恐怖を煽り立てようとも、理性が今の状況を現実として受け入れることはないだろう。あっても、ごくわずかの人数に限られるはずだ。そしてそれでは、この世界が現実になることは不可能であり、それを回避するためにはもっと強烈なインパクトをプレイヤーに与えねばならない。
――そんなものを、一体どうやって?
そんなマサキの思考を先読みしたように、赤ローブは感情の消え去った声で告げた。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
その声を聞くや否や、広場の全員が一斉に右手の指二本を揃えて振り下ろした。同時に電子的な鈴の音が広場に響き、全員が目の前に現れたウインドウを注視する。マサキも同様にし、アイテムストレージの所持品リスト内の最上に《手鏡》というゲーム内部のアイテムとしては些かファンタジー要素に欠けたアイテムを発見、すぐに具現化させた。
きらきらというサウンドエフェクトと共に現れたそれは、特に装飾が施されているわけでもない、本当に何の変哲もない手鏡だった。
マサキはそれを手にとって覗き込んでみるが、特に何かが起こるわけでもない。マサキが何かのバグを疑い始めたとき、不意にマサキの、そして広場に集ったプレイヤー全員の体が白い光に包まれた。
十秒ほど視界を染めていた白い光が徐々に薄くなり、それに比例して世界がクリアになっていく。再び澄み渡った世界で何が変わったのかを確かめようと、マサキは再び鏡を覗き――
「へぇ……」
賛嘆の息を漏らした。
マサキのアバターは確かに現実の雅貴の顔と似ているのだが、それはあくまで“他人にしては”の話だ。もし二つの顔を横に並べ、改めて見比べることができたなら、はっきりと別人であることが分かるだろう。だが、今マサキが覗いている鏡の世界の人物は、男性にしては白めの肌、細い体格、怜悧な視線と、その全てが現実の橋本雅貴と瓜二つだった。
(なるほどね。その手できたか)
自分の顔を右手でペタペタと触りながら、マサキは茅場の取った方法を素直に評価していた。
人は通常、世界を五感からの情報で認識している。そしてその中で最もウエイトを占めているのが、視覚からの情報だ。だから、視覚が自分を自分だと認識すれば、晴れてこの世界はその人にとって現実となる。虚構で造られた世界を現実とすりかえるためには、最も効果的な手法と言えた。
改めてマサキが周囲を見回すと、今までよりも数段見た目のレベルが落ちたコスプレ集団は、全員揃っ
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