アインクラッド 前編
虚構から現実へ
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
た。茅場が発言したような内容ならば、彼はこの時点で既にある程度予測していたのだから。
だが、茅場が次に放った言葉は、マサキの予想と一致していながらも、彼の浮かべるポーカーフェイスを一瞬だけ崩した。
『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合――』
『――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
この瞬間、このゲームは単なるゲームではなく、現実の死が想定されるデスゲームへと姿を変え、広場のプレイヤーたちはそのことを理解することを拒もうと、自分の中に響く声を掻き消そうとするかのようにざわめきだす。「そんなことが出来るはずはない」という、きわめて楽観的な、しかしこれ以上ないほどに切実な思い込みで。
しかし、クラインがナーヴギアの重量の三割がバッテリセルであることに気付くと、広場が一気に静まり返った。気を狂わせた者が現れないのは、その言葉の意味を未だに理解していないからだろう。そしてそんな彼らに、茅場はこれまでで最も残酷な宣告をした。
『――ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果』
『――残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
――馬鹿が。
どこかで一つだけ上がった細い悲鳴を聞き流しながら、マサキはナーヴギアの強制解除に踏み切った者たちを罵った。こういう場合、マスコミを通じて報道されたという茅場の言葉が本当ならば、当然それよりも速く情報が伝達されているであろう警察やそれに準じた組織が動くはずであり、それをおとなしく待つのが正解だ。恐らくはマスコミの報道を信じなかったか、理解することを理性が拒み、パニック状態になったのだろう。今広場に呆然と立ち尽くしているプレイヤーたちの様に。
理性というものは、時として人の目を曇らせる。受け入れねばならないことから、人の目を強制的に逸らす。自分の中のちっぽけな常識を守るために、とてつもなく大きなものを代償に差し出す。しかも、そこまでして守りたかった常識も、結局はズタズタに引き裂かれる。後に残るのは、途方もない喪失感と罪悪感だけだ。結局のところ、理性なんてこんな時には何の役にも立ちはしない。
理性の不安定さをじっくりと咀嚼しながら、数秒ほど愚かな家族や友人を見下したマサキだったが、すぐに表情から色を消し去ると、再び眼前の赤ローブを見据えた。いかに彼らの選択が愚かであろうと、マサキは彼らとは何の関係もないし、彼らに介入する必要も、ましてその権利も持ち合わせていないのだから。
その後も、茅場によるチュートリアルは継続した。しかし、先ほどのよう
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ