第三章
[8]前話
「違うでしょ」
「大きな和紙に」
「大きな筆でね」
「思いきり描くの」
「何メートルもの和紙にもね」
「あっ、身体位の大きさの筆を使って」
「書く場合もあるのよ」
こう章江に話した。
「実際にね」
「あれ本当にするのね」
「それでもう作品が多くて」
「碧流ちゃん一作に時間かけるわね」
「けれどこの人はね」
「時間かけないの」
「絵一枚に一週間らしいわ」
それ位の時間しかかけないというのだ。
「それでどんどん描いていくの」
「何かモーツァルトとかゴッホみたいね」
「そうでしょ。しかも絵や彫刻、書道さえ出来ればいい」
「そんな人なの」
「何でも悪い人じゃないけれど」
それでもというのだ。
「もういつも描いていて他のことに関心のない」
「そんな人なの」
「ええ、天才っていうと」
それならとだ、碧流は言った。
「こんな人?不眠不休でも平気で描くらしいし」
「才能があって」
「独特の、しかも努力なんてね」
それはというと。
「努力と思ってない、そして上には上がいるとか」
「そうも思わないのね」
「そうじゃないの?そんなの一切気にしないで」
そうしてというのだ。
「その好きなことをひたすらやっていく」
「他には目もくれないで」
「そんな人じゃないかしら」
「それが天才なのね」
「正直この人の絵は私もわからないわ」
碧流は自分でこのことをはっきりと言った。
「けれど私よりずっと凄いことはね」
「そのことはなのね」
「わかるわ、ここまできたら」
それこそというのだ。
「本物よ。私は天才じゃないわ」
「そう言われてても」
「ええ。ただ芸大には受かったし」
「そこで頑張っていくのね」
「そうするわ」
このことはとだ、章江に話した。そのうえで画廊にある他の彼の芸術作品を観ていってその後で二人で一緒に帰った。
碧流は芸大で頑張り教育大学で頑張っている章江ともよく会って仲良くし続けた。だがずっとその人には敵わないと言っていた。本物の天才は違うと。それは大学で講師をしながら画家となっても変わらなかった。教師になった章江に今やその人は世界的な画家になったことを話した。本物の天才にとっては何でもないことを。
天才というもの 完
2021・11・20
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