鍾乳洞
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「ここは……?」
地面の深く、書き換わった空間に、ウィザードは唖然とした。
人魚のファントムと戦いながら、地面の奥深くへ潜っていく。その最中着地した、冷たい空気に、思わずウィザードは変身を解除した。
「……何? ここ」
そう、怪訝な声を上げるのは、人魚のファントム。
彼女はファントムの姿のまま、空間を眺めている。
地下深く。そこに、自然の神秘が作り上げた地下水脈があるのは、何も不思議なことはない。太陽の光さえも決して届くことはない、鍾乳洞の世界。
近くの水面より飛び込んでくる光だけが、世界の道しるべであるような場所。
だが、人類が踏破しえないほど深くへやってきたハルトは、湖の対岸にある人工物へ目を留めた。
社。そして、その奥に設置してある祠。人が入り、お参りをするぐらいの大きさは十分にあるそれ。不規則に並んだ大自然の芸術作品たちの中で、直線的な人工物は、不純物としか見えなかった。
「何で、こんな深さにこんなものが……?」
人類が到達し得る深さなど、ハルトは知る由もないが。
少なくとも、見てわかるほど朽ちる年月、ここに建てられていいはずがない。
木造の社と祠は、それぞれあちらこちらにヒビが入り、長い歴史を感じさせた。
自然と、ハルトの足は祠へ向かっていた。
かびた匂いが充満する祠。
賽銭箱などもなければ、その他ハルトが知るようなものはない。
ただ一つ。
「……龍? それとも蛇?」
祠の内側には、胴体が長い生物の姿が描かれていた。
それも一つだけではない。祠の内部、正面に三匹。左右に二匹ずつ。
そして、祠に入ってすぐのところには、大きな台のような岩に、注連縄が巻き付けられていた。
「へえ……こんな地下深くにこんなのがあるんだ……」
その声に、ハルトは強く振り返った。
戦いながら、この地下まで降りてきた相手。
人魚のファントム。すぐ近くの地下水と似合う色合いの彼女は、ファントムのより人間態の姿になる。
「なんでいきなり襲ってきたんだ……? さやかちゃん」
青い髪の少女。
さきほどまで、ラビットハウスに訪れた美樹さやかその人である、人魚のファントム。
彼女は、肩をすぼめながら笑った。
「だって……あのファントム……人間なんでしょ?」
「……感情輸入した?」
ハルトの問いに、さやかは頷いた。
「悪い? あたしだってファントムだけど、心は人間のままのつもりだよ? あたしと同じ境遇の人がいるなら、やっぱり気になるし」
「……アイツは……」
ハルトはそこまで言って、口を止める。
天井___正確には、ハルトたちが落ちてきた、地殻の内部___が揺れる。
そこから落ちてきた、緑の影。
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