鍾乳洞
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ないし、逆に誰かの味方をするつもりもない。ただ、アンタからも色々話が聞きたいだけだよ」
すると、地下水はさやかの右手に集まっていく。
「今のは前払いの代金。話くらい聞かせてもらってもいいでしょょ?」
か細く、レイピアのような形になったそれをさやかが振ると、すぐそばの鍾乳石がバターのように切れ落ちていった。
「ここなら、ハルさん以外は誰もいないし。ハルさんは、あたしが聞きたいこと全部知ってそうだけど、話してくれそうにもないし」
さやかは水のレイピアを手放す。すると、レイピアを構成していた水はバラバラに霧散し、魚となってさやかの両手の上で踊る。
「見ての通り。アタシは美樹さやかのままのつもりだけど、ファントム、マーメイドでもある。アンタもそういうところでしょ?」
「グレムリンってファントムだよ。あんまりこっちの名前は好きじゃないんだけどなあ」
ソラは自己紹介がてら、帽子を外した。そうして見せる顔には、ファントム特有の紋様が浮かび上がっていた。
さやかは続ける。
「人間のままファントムになるのって、あり得るの? ハルさんはそこ、すごい気にしているみたいだけど」
「うーん……僕が知る限りでは、僕と君だけかなあ?」
「……」
ハルトは、ソラの一挙手一投足から決して目を離すまいとしていた。
ソラは、ハルトの視線に肩をすぼめながら言葉を再開した。
「僕はファントム……蛇のファントムに絶望させられて、こんな姿にさせられちゃったんだよね。でも、彼女の反応から、やっぱり珍しいみたいだよ。人のままのファントム」
ソラは、湖面でジャンプした。
生身のままながらファントムの力を発揮した彼は、そのまま水面をステップのように移動し、やがて湖の対面へ着地した。
「そうなんだ……じゃあ、結局アンタにも、あたしが人間って証明にもならないんだ」
当たり前のように湖面を歩きながら、さやかは結論付けた。
地下の湖は、明らかに人の身長以上の深さが見える。湖の底より湧きあがる光が作り上げる青緑の光。それは、さやかの髪を照らし、神々しく輝いて見える。
「でも……やっぱり、あたしは人間だよ。多分、ソラさん。アンタも」
「そう言ってくれるのは、本当に嬉しいね」
ソラはそう言って、対岸に訪れたさやかを迎えた。
彼女がソラの元へ着くのと時を同じく、ハルトもまた、岸を伝って対岸へ渡った。
「ハルト君。こんなことを言われたけど、それでも君は僕を狙うの?」
「当たり前だ……お前がやったことを、俺は絶対に許さない……!」
ハルトは歯を食いしばりながら言った。
少しの間、ハルトとソラの間には火花が散っていた。
だが。
コツ。コツ。と。
人が来ることなど適わない
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