第二章
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「知り合いにも親戚にもな」
「誰にもね」
「お医者さんは絶対に言わない」
「患者さんのプライベートだから」
「それはないしな」
「それならね」
「俺達だけの秘密だ」
人工授精で自分達の子供をもうけたことはというのだ。
「絶対にな」
「ええ、それはね」
「何があってもな」
「私達だけの秘密で」
「墓場まで持って行こうな」
「そうしましょう」
二人で我が子を見ながら話した。
「私達の子供であることに変わりはないし」
「だったらな」
「もうこの子にも言わないで」
「墓場に持って行こう」
人工授精のことはとだ、こう話してだった。
二人は我が子を育てだした、高齢出産であり子育てには苦労した。だが幸い誠はすくすくと育ちしかも特に問題は起こさず。
無事に進学し成人し就職した、それでだった。
二人は我が子の結婚式の時は共に古稀に達していた、だがそれでも涙をぽろぽろと流して喜んで夫婦で話した。
「よかったな」
「そうね」
「誠を産んで」
「これまでもそう思っていたけれど」
「今が一番そう思うな」
「本当にね」
「あれっ、何でそんなに喜んでるの?」
父の若い頃そっくりに育っている息子はそんな両親を見て首を傾げさせた。
「普通に結婚するだけなのに」
「それが嬉しいんだ」
「あんたがそうしてね」
「歳取ってから出来た子だからな」
「尚更なのよ」
「そんなこともあるだろう?」
息子は両親の言葉に首を傾げさせて応えた。
「だから別に」
「親はそんなものなんだ」
「子供の幸せが嬉しいのよ」
夫婦はそう言う息子に泣き笑いしつつ答えた。
「子供が出来たらわかるわ」
「その時にね」
「そんなものかな」
息子は両親の言葉がわからず首を傾げさせた、そして。
彼がその場を去り二人だけになった時にだ、彼等はあらためて話した。
「人工授精でもな」
「お腹が大きくなっていってね」
「それで産まれて育てていくと」
「完全に私達の子供になるわね」
「人工授精は無機質だけれどな」
普通に子供をもうける行為ではないがというのだ。
「けれどな」
「それでもよね」
「ああ、それでもな」
「そうした経緯を経ていくとね」
「どうしても欲しかったしな」
「愛情が生まれるわね」
「だから嬉しいな」
息子の結婚式の時はというのだ。
「本当にな」
「ええ、じゃあこれから結婚式だけれど」
「あいつの幸せを祝福しよう」
「そうしましょう」
夫婦で話してだった。
我が子の結婚式に出席した、もう二人にとって息子をもうけた経緯のことはどうでもよかった。彼は紛れもなく自分達の子供であるので。
人工授精 完
2021・10
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