第2部
テドン
不思議な夜の町
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めたあと、部屋の鍵を一つ渡して、笑顔で私たちを二階まで案内してくれた。 いや、こうなることはわかっていたのだが。
「……もうこのやりとりも飽きてきたな」
「うん、そうだね」
揃って遠い目をする私たち。 女主人は、部屋の簡単な設備の説明をしてくれたが、私たちの耳には入らなかった。
とりあえず、言われたとおり二階へ向かう。だが、番号を確認し鍵を開けて扉を開くと、信じがたい光景が目に入った。
「なんでベッドが一つ……? 」
「…… そりゃ、あの女主人から見たら、俺たちは新婚夫婦らしいからな」
半ば投げやりに言い放つユウリ。 もういちいち反応するのも疲れたようだ。
ただ、一部屋なのはまだわかるが、ベッドが一つしかないのは困る。 二人で寝るには丁度良さそうな大きさではあるが、それは新婚夫婦に限った話だ。
「俺が床で寝るからお前はベッドで寝ろ」
部屋を眺めるユウリが提案するが、さすがに体調の悪い彼を床で寝かせるわけにはいかない。
「もう一度下に行って、二部屋にしてもらうよう話してくるよ」
「…… 無駄だと思うけどな」
正直私もそう思うが、行ってみないとわからない。
私は溜め息を一つつき、再び女主人のところへ向かう。
「あのー、部屋を変えてもらいたいんですが」
「……」
「それか、もう一つ部屋を増やしてもらいたいんですけど……」
「……」
「あのー!! 」
「……」
いくら声をかけても、話はおろか、口を開いてすらくれない。 完全に無視されて、私は心の中で泣きそうになった。
一方的に話しかけて十数分、結局あきらめて、二階に戻ることにした。
「ごめん、やっぱり無理だっ……」
言いかけて、私は思わず動きが止まる。
二階の扉の前で待っていたユウリは、自力で立つこともできないのか、壁に寄りかかりながら荒い息をしていた。
「ユウリ!! 」
私はあわてて駆け寄り、彼の顔を覗き込む。 顔は青白く、まるで血の気がない。 幸い熱はなさそうだが、呼吸をするのも辛そうだ。
「…… おれに……まう…… な……」
小さい声で聴きとりづらいが、どうやら「俺にかまうな」と言っているようだ。 けれど、そんな言葉を聞いてあげるほど無神経な人間ではない。 体を支えようとするが手を払われ、それでもなお彼は無理して立とうとする。
肩を貸そうと手を伸ばした時、ぐらりと彼の体が傾いた。
「!! 」
彼の体は、限界に達していた。
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