第二章
[8]前話
その二人のところに緑の服、踊っている者達と同じ服を着た白い髭を生やした老人が来てそうして優しい声で言ってきた。
「今日はそのまま寝ていなさい」
「お爺さん誰?」
「誰なの?」
「少なくともお前さん達には何もしない」
優しい声のままの返事だった。
「だからだ」
「今は寝ていいの」
「そうしていいの」
「そう、そして朝になったら真ん中に緑の椎の葉が落ちている道を進んでいくんだ」
老人は二人にこうも話した。
「その道を進んでいけばお前さん達の村に帰られる」
「私達村に帰られるの」
「山に迷ったままじゃないの」
「大丈夫だ、だから今はゆっくりと寝なさい」
ここでも声は優しかった。
「いいね」
「それじゃあ」
「お爺さんがそう言うなら」
姉妹は老人のその優しい声に安心してだった、そのうえで。
また寝ることにした、安心すると踊りの音も心地よい子守唄だった。そして朝目が覚めた時にだった。
二人の周りにはこれまで拾ったものよりも多くの椎の実があった、マナはそれを見てマキに言った。しかもおどりがあった場所は今は椎の木達があった。
「お姉ちゃん、これって」
「椎の実よね」
「昨日私達が拾ったよりずっと多いよ」
「これまで持って帰ったら」
それこそとだ、マキは目を丸くさせて妹に言った。
「お父もお母も凄く喜んでくれるよ」
「そうだね、じゃあ全部拾って持って帰ろう」
「そして道は」
マキはさらに言った。
「椎の葉がある道を進もう」
「お爺さんが言ってたね」
「真ん中に緑の椎の葉がある道を進んだら村に帰られるって」
「そう言ってたから」
「実を拾ったらね」
「その道を歩いて帰ろう」
こう話してだった。
姉妹で仲良く身を拾って葉を頼りに道を歩いていき村に帰った、二人が帰ると親達も村人達も大喜びだった。
そして姉妹の話を聞いて言った。
「そうか、それは椎の木の精だな」
「夜に踊っていたのも」
「そしてお前達に優しく話してくれたのも」
「実をくれたのもな」
「道に葉を置いたのも」
全てというのだ。
「椎の木の精だ」
「お前達は椎の木の精に助けてもらったんだ」
「お土産まで貰ってな」
その多くの実達の話もした、そしてだった。
その話を聞いた姉妹は椎の木の精達に深い感謝の念を持った、そうしてだった。
この話を二人が年老いて世を去るまで自分の子供や孫村人達に伝えていった。そうして今も沖縄に残っている。沖縄では椎の木は人間の守り神であるというがこの話を聞くとそのことがわかる。人は人だけで生きているのではないのである。
椎の木 完
2021・3・10
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