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只のイキリ
第二章
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「えっ、決まった」
「おいおい、見事に決まったな」
「いい背負い投げだったな」
「練習でもあんなに奇麗に決まらないだろ」
「それも一瞬で決まったな」
 クラスメイト達もこれには驚いた、そして。
 彼等はヒソヒソとだ、こう話した。
「あいつまさかな」
「口ではいつも強いとか言ってるけれど」
「実は弱いんじゃないか?」
「それも相当にな」
「俺でも勝てるか?」
「僕でもじゃないのか?」
 こう話した、そして実際にだった。
 亀田は次々に一瞬で投げ飛ばされた、彼が投げようにもだった。
 非力でしかも技がなっていないので投げられない、しかも隙だらけで誰が見ても一瞬で技を仕掛けられその技があっさりと決まった。
 気付けばクラスメイト全員に負けてダントツの最下位だった、それで体育の先生からも突き放した声で言われた。
「亀田、真面目に授業出ろ」
「・・・・・・・・・」
 亀田は何も言い返せなかった、そしてだった。
 クラスメイトは後で彼のことを詳しく知り話した。
「口だけなんだな」
「実際は喧嘩なんかしたことなくて」
「部活も幽霊部員で」
「碌にトレーニングもしてなくてか」
「イキってるだけか」
「そんな奴だったんだな」
「チビで身体もガリガリでな」
 それでというのだ。
「弱いんだな、誰よりも」
「強がってるだけか」
「それで煙草も吸ってて体力もない」
「しかも勉強も出来ないし」
「何もない馬鹿なんだな」
「馬鹿だからイキってるだけか」
 誰もが亀田の正体を話して理解した、そして。
 以後誰も彼を相手にしなくなった、馬鹿にして見下して話しかけもしなくなった。すると自然と学校に来なくなった。
 その彼の席を見てだ、鈴村はクラスメイト達に話した。
「何ていうか弱かったね」
「ああ、滅茶苦茶弱かったな」
「本当にな」
「口と外見だけで」
「何もない奴だったな」
「頭も悪かったし」
「そうだね、ああはなりたくないね」
 鈴村は心から思った。
「恰好悪いよ」
「そうだよな」
「ああいう奴が一番恰好悪いな」
「口と外見だけで」
「只のイキリは」
「だから僕は柔道やっていくよ」
 部活ではまだ投げられてばかりでもというのだ。
「それで彼みたいにはならないよ」
「そうしないとな」
「あいつみたいになったら駄目だな」
「只のイキリになったら終わりだな」
「一番恰好悪いな」 
 クラスメイト達はこう言って彼の席を見た、亀田は結局卒業式も学校に来なかった。そして高校も行かず。
 家に引きこもってシンナー中毒で廃人になって死んだ、その話を聞いて鈴村もかつてのクラスメイト達も馬鹿な奴だと思った、ただそれだけであった。


只のイキリ   完


           
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