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渦巻く滄海 紅き空 【下】
五十二 潜入
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「おい!」

薄暗い木立の合間を縫うように走る。
樹冠の合間から漏れる僅かな日光が多くの影を生み出している。
影を操る者の領域と言っても過言ではない森の中、飛段は苛立たしげに声を張り上げた。

「角都と俺を引き離す気か?何処まで行こうってんだ!?」


前を走るシカマルの背に怒号を浴びせる。
シカマルの術中に嵌まり、影真似の術で支配された我が身。自由の利かない足が勝手にシカマルの後を追う。
シカマルの影と繋がっている飛段の影。追い駆けるしか術はない現状に、飛段は苛立ちを募らせる。

シカマルが一瞬、流し目で背後を振り返った。飛段の怒声に、ふ、と口角を吊り上げる。
無言の肯定に、飛段は額に益々青筋を立てた。


暫し無言で走り続け、ようやっとシカマルは立ち止まる。
かと思えば、辿り着いた先でワイヤー付きのクナイを投擲し始めた。
更に起爆札付きであるソレは、周囲の木々の幹に次々と突き立てられる。

まるで蜘蛛の巣の如きその場で、獲物のように中心に佇むふたり。
ワイヤーが張り巡らされた周囲を見渡し、飛段はクッと口角を吊り上げた。

「逃がさないってか?」


無数の起爆札付きのワイヤーがシカマルと飛段の周囲を取り囲む。
逃がさないようにと固めた包囲網。
少しでも触れたらドカン、だが、それはお互い様だ。

シカマル自身も危険な状況に変わりないが、捨て身にならねば勝てない相手だと理解しているのだろう。
現に、今までシカマルは飛段に近づかないように影を使って遠距離戦で攻めてきていた。
それだけ己の能力を警戒しているという事がありありと伝わってきて、飛段は聊か得意げに嗤う。
その笑みはシカマルの影が己の影から離れてゆくのを見て、益々深まった。

「どうやらその影の術、限界のようだな」

肩で息をするシカマルを前に、飛段は瞳を細める。


「俺を逃がさねぇようにしたんだろうが…──そりゃこっちも好都合なんだよォ、バカがァッ」


瞬時に接近する。
身構えるシカマル目掛け、飛段は隠し持っていた棒を振り上げた。

先端が鋭利な黒い棒。
その刃先に付着した血に、にんまり嗤う。

驚愕の表情でシカマルが倒れる。
その頬に流れる一筋の血を見て、飛段は益々笑みを深めた。

血を舐める。
やがて、じわじわと身体が変貌してゆく。

白と黒の縞模様、否、身体の骨が浮かび上がっているかのような妙な風体に化した飛段は、そのまま己の手を棒で突き刺した。
シカマルの血よりも遥かに多い量の血が地面にボトボトと染みをつくる。
その血で陣を描いた飛段は円陣の中で眼を細めた。

「条件は整った」


【呪術・死司憑血】。対象者の血を体内に取り込むことで術者の身体と対象の身体がリンク。
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