第二部
第二章 〜対連合軍〜
百二 〜苦悩と愛〜
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だな。
ふと、物音に気づいた。
何者かが、部屋の中を窺っている。
殺気はないが……月にしがみつかれていて、立ち上がれぬ。
そのうちに、走り去る足音が聞こえてきた。
くっ、これでは間に合わぬ。
月を振り解けば追えるが、流石にそれは躊躇われる。
焦りばかりが募りそうになったが、その時何者かが入り口から顔を覗かせた。
……紫苑か。
立てた指を唇に当て、私に頷いてみせる。
任せよ、という事のようだ。
私もまた、頷き返した。
あの様子では、曲者ではあるまい。
月が落ち着いたら、紫苑を探し出して確かめるとしよう。
四半刻程が過ぎた。
月は泣き疲れて、そのまま眠ってしまった。
起こさぬよう臥所に横たえ、そっと部屋を出た。
さて、紫苑は……。
「歳三様」
探すまでもなく、紫苑は少し離れた廊下に立っていた。
「私の部屋へ参りませんか?」
「しかし、璃々が寝ているであろう」
「ご心配なく。璃々なら、今夜は鈴々ちゃんと一緒ですわ」
「……そうか」
自室に月がいる以上、やむを得まい。
「歳三様。さ、一献」
紫苑の部屋には、徳利と杯が用意されていた。
「紫苑。今は……」
「わかっていますわ。でも、少しお飲みになって下さい」
「……相わかった」
星や霞に何も言えぬな、これでは。
トクトクと、杯が澄んだ液体で満たされる。
米の香りが、鼻腔をくすぐった。
「これは……純米吟醸酒か」
「ええ。歳三様のお酒はどれも美味しいですけど、これが一番のお気に入りですわ」
かちりと杯を合わせ、口に運んだ。
ふむ、確かに美味い。
「酒など久しぶりだな」
「私も、流石に控えていますわ。でも、今宵ぐらいは構いませんよね?」
紫苑は微笑む。
その顔が上気して見えるのは、酒のせいであろうか?
「それで紫苑。足音の主は?」
「……お気づきかも知れませんが、詠ちゃんでした」
やはりか。
月の事が気になって、部屋の前までやって来たのであろう。
そこで月の激白……入るもままならず、立ち聞きしてしまった。
そして、一部始終を知り……か。
「明日、二人で話をさせるしかあるまい。詠は、取り乱していたのではないか?」
「……ええ。とにかく、一晩頭を冷やすようにとは言っておきましたけど」
「うむ。月にとっても、詠は掛け替えのない存在だ。この二人の間に、亀裂が生じるような事はあってはならぬ」
紫苑は、黙って頷いた。
「杯が空だな。注いでやろう」
「ありがとうございます。歳三様も、もう一献如何ですか?」
「……紫苑。私が酒に強くない事は存じておろう?」
「ええ。ですが……」
紫苑は顔を伏せた。
「お辛そうな歳三様のお顔、見るに忍びないのです」
「
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