暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第二部
第二章 〜対連合軍〜
百二 〜苦悩と愛〜 
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 協皇子と月は、私の突然の帰還に驚きを隠せぬようであった。
 伝国璽の事は伏せてあった上、シ水関陥落直後であった為のようだ。
 だが、私の身なりが乱れていない事で、すぐに平静さを取り戻した。
「土方。何があった」
「は。まずは、これをご覧下さい」
 押し頂きながら、錦の袋を取り出した。
 それを見た瞬間、二人の顔色が変わる。
「も、もしやそれは……」
「そんな……まさか……」
「その、まさかにござる」
 協皇子は、息を呑んだ。
「洛陽の古井戸に投げ込まれてござった。恐らく、陛下をお連れする際の混乱でそのような場所に放り込まれる事になったものかと」
「し、しかし……。これが偽物という事はありませんか?」
「なるほど、手の込んだ策という事か?」
「はい」
 月の申す事にも一理はある。
「いや……これは紛れもない本物だ」
 そう言って、協皇子は小刀を取り出し、龍の装飾を少し削った。
「殿下、一体何を!」
「月。見よ」
「え?……あ」
 削った下は、くすんだ黄金色になっている。
「この部分は金を塗布したものだが、古くなって重ね塗りをしているのだ。もし偽物なら、ここは玉が見えている筈だ」
「……では、やはり」
「土方の申す通りじゃろうな。今、長安にある物は偽物だ」
 流石に、協皇子の表情は険しいものだ。
「このような馬鹿げた戦は、早急に止めさせねばならぬの。土方、何とか手を打てぬか?」
「妙案はありませぬ。が、詠や風らに諮ってみます」
「頼む。陛下の事もそうじゃが、無駄な血をこれ以上流しとうはないのじゃ」
 私と月は、黙って頭を下げた。

 協皇子の下を辞し、月の執務室へと入った。
 詠と風のみならず、愛紗や紫苑、閃嘩(華雄)らも顔を揃えていた。
 事の次第を伝えると、一様に浮かんだのは怒りである。
「巫山戯るな! 偽物の勅書を以て月様や歳三様を逆賊に仕立て上げたと言うのか!」
 閃嘩など、得物を手にそのまま長安に突撃しかねぬ勢いだ。
「落ち着きなさい、閃嘩ちゃん」
「そうだ。私とて許し難いが、怒りに任せては全てがぶち壊しだぞ!」
「くそっ、放せ! 宦官共をこの手でぶった切ってくれる!」
 ……うむ、やはり些か冷静さを得たとは申せ、閃嘩はまだまだ危ういところがあるな。
「まさか、こんな壮大な茶番劇だったとはね。僕にも想像できなかったけど」
「むー、でもでも相手の手の内がわかった以上、存分にお返しさせていただきませんとねー」
「そうね。さて、どんな目に遭わせてやろうかしら」
 二人は二人で、穏やかではない会話をしている。
「お父様。兎に角この事を袁術さん達に知らせましょう」
「知らせて何とする」
「決まってます。戦の無意味さをわかって貰います」
「さて、そいつはどうかな?」

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