精神の奥底
76 The Day 〜後編〜
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「あの時の女の子がミヤだった……」
自分の心を常に縛り続けたあの日の出来事の全てを鮮明に思い出す。
それと同時にその出来事が大きな影響を与えていた事実に冷静さを保てなくなった。
もはや枯れてしまったと思っていた涙が溢れ、全身が震えた。
「あなたは彼女の心を支え続けていた。彼女にとって、あなたはヒーローだった」
「……」
「あなたにとっては、忌まわしい思い出でしかないのかもしれない」
「そうだ…僕は誰を傷つけたり、傷つけられる度にあの日の嫌な感覚を思い出して……」
今まで散らばっていたもの全て繋がってしまった。
幼い自分の心に深い傷をつけたあの日、誰かを救っていたことなど全く予想していなかった。
ただ痛くて、苦しくて、胃袋を握りつぶすような感覚を与え続けるものでしかなかったというのに、自分が傷ついた代わりに、誰かが救われていた。
誰にとっても何のプラスにもならないし、なってはいけないと思い続けてきた。
そんな複雑な気持ちが、彩斗には受け入れられられず、涙が溢れないように必死に目蓋を閉じることしかできない。
だがそんな彩斗を前に彼女も真っ向から向き合う。
「でもあなたはこの日があったから、今日まで生きてこれた」
「……」
「誰かの痛みを悲しんで、誰かの痛みに怒ることができた。もう二度と味わいたくないって、声を上げることができた」
「だとしても、僕は道を踏み誤った……」
「あなたは道を誤った。優しいあなたには耐えられないと思う。もう引き返せない。だから、少しでも正しい道へ、正解が無いとしても、少しでも誰かの為になる道へ、あなたは進もうとした」
「また間違うかもしれない…」
「大丈夫。今のあなたなら、あなたにかできないことが、あなたにか進めない道が選べるはず。きっと彼女もそれを願ってる」
彼女は彩斗の手を握り、日記の最後のページを開いた。
「目を開いて。私がついてる」
彩斗は震える吐息を漏らしながら、何度か深呼吸をした。
目を開いたら、今度こそ自分の全てが崩れるようながしているのに、開かなければそれを超えるくらい後悔するようなおかしな感覚で頭が割れそうだった。
呼吸を整え、ゆっくりと目を開く。
「…これは」
涙で曇った目の焦点が合ってから、内容を把握するまで数秒の時間を要した。
そこに書かれていたのは、全く予想していなかったものだった。
これまでのミヤが日常で見て感じたことが記された日記ではない。
『これが読まれているということは、私はもうこの世にいないのかも知れません。想像もしたくないけれど、もし本当にそんなことがあった時には、これを読んだ人は彼に伝えてください。』
ミヤから彩斗へのメッセージだった。
『きっと君は今頃、自分を責めていると思う
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