第一章
[2]次話
本当のゴリラ
桐生哲章は二メートルの長身に筋骨隆々の身体を持っている、黒髪をスポーツ刈りにしていて岩の様ないかつい顔で目の光も強い。
仕事は高校教師であり柔道部の顧問で生活指導も兼ねている、授業でも部活でも生徒指導でも常に厳しく口喧しいので生徒からは極めて嫌われている。
「いつも校門で威張りやがって」
「何かあると校則校則よね」
「前ボタンが外れてるだの襟のホックをしてないだの」
「スカート折って短くしてもいいでしょ」
「今時制服の下のシャツ何でもないだろ」
「メイクなんて常識でしょ」
生徒達は桐生にいつも不平を言っていた、そして。
その外見からだ、彼はこう仇名された。
「ゴリラかよ」
「あいつゴリラよね」
「もう外見がそれだよ」
「狂暴で頭悪そうで」
「まさにゴリラだよな」
こう言って実際に陰では彼をゴリラと呼んだ、兎に角生徒は誰もが彼を忌み嫌って早く転勤するなりしろと思っていた。
「いなくならないかな」
「この学校から」
「死ねばいいんだよ」
「ヤクザにでも刺されて」
「いなくなればいいのにな」
こう言っていた、そん中で。
ある日の午前中だった、学校に。
如何にも怪しい男が来た、歩き方はふらふらとしていて目は虚ろで何かをぶつぶつと言っていてその手には。
ナイフがあった、丁度グラウンドで体育の授業をしていた生徒達は男を見て言った。
「何だあのおっさん」
「先生じゃないよな」
「急に来たな」
「何だよ一体」
「目おかしいぞ」
「歩き方もな」
「何か訳わかんねえこと言ってるな」
生徒達は男を見て口々に言った。
「何者だよ」
「見たことねえ奴だな」
「覚醒剤でもやってるのか?」
「しかもナイフ持ってるぞ」
「やばいぞあいつ」
「逃げた方がいいぞ」
「電波だ、電波が来た」
男は空を見上げつつぶつぶつと言っていた。
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