第二十一話 勉学もその十二
[8]前話 [2]次話
「お前は埼玉を知らないんだ」
「ってすぐそこでしょ」
「もっと言えば群馬も知らないだろ」
「電車で日帰りで行けるじゃない」
その群馬もというのだ。
「通勤も出来るでしょ、群馬も」
「違う、埼玉は何か」
「西武ライオンズの本拠地?」
咲はここでこの野球チームのことを話に出した。
「昔滅茶苦茶強かったのよね」
「二十世紀の終わりはな」
「所沢に球場があってね」
「しかし東京じゃないだろ」
そこにこだわる父だった。
「まさにその辺りの草でも食べさせておけなんだ」
「何、その言葉」
「それが埼玉だ、埼玉はお父さん達の世代で言うと僻地中の僻地なんだ」
「だからお隣なのに」
咲は自分の考えから言った。
「そこまで滅茶苦茶言うことないでしょ」
「お前の感覚だとそうか」
「同じ関東だし」
「だからお父さんは生粋の東京都民なのよ」
テレビを観ている母が言って来た、時代劇チャンネルで遠山の金さんを観ている。金さんは高橋英樹である。
「それで埼玉はね」
「偏見があるの」
「というか妙に田舎だってね」
その様にというのだ。
「思ってるのよ」
「そうなのね」
「まあお母さんも東京にいられたら」
「それでいいの」
「それか神奈川だけれど」
「どうしても埼玉は駄目なの」
「お父さんもお母さんも野球はヤクルトでしょ」
本拠地は東京の神宮球場である。
「それでよ」
「埼玉はなのね」
「西武?名前は知っているけれどな」
父は酒を飲み続けつつ言った、次第に酔いが回ってきている。
「お父さんはパリーグは知らない」
「じゃあロッテは?」
「今の監督誰だった」
これが返事だった。
「バレンタインさんか」
「井口さんよ」
咲は即座に返した。
「今の監督さんは」
「そうだったか」
「西武の監督さんも知らないわね」
「広岡さんか」
父は考えつつ言った。
「確か」
「お酒かなり回ってる?」
「自覚している」
見れば酔いが急速に回ってきていた、そうした顔になっていた。
「お父さんもな」
「やっぱりそうね」
「森さんの前の人だったな」
「森さんって何時よ」
「一九八〇年代後半から一九九〇年代前半の人だ」
獅子の時代とさえ言われた西武黄金時代の時である。
「その人の前だからな」
「それじゃあね」
「その人言うならな」
「やっぱり酔い過ぎよ」
「本当に誰だった」
西武の監督はというのだ。
「辻さんだったか」
「そうよ、正解よ」
母が答えた。
「今度はね」
「だったらよかったな」
「ええ、ただ今何位か知ってる?」
「いや、知らない」
「私も知らないわ」
母もだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ