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犬は苦手だったけれど
第一章

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                犬は苦手だったけれど
 島崎昭は収まりの悪い黒髪で一七四程の背の痩せた身体と八分睨みの目の青年だ。社会的な立場は大学生である。
 彼は猫好きだ、だが。
「おい、まただぞ」
「ああ、そうだな」
 昭は一緒にいる友人にこう返した、見れば。
 街を歩いている彼に一匹のドーベルマンが近寄ってきてだった。
 優しい目で見詰めて尻尾を振ってきた、友人はそれを見て語った。
「犬に好かれてるな」
「昔からなんだよ」
「お前猫派なのにな」
「犬はどうもな」
 そのドーベルマン、飼い主のリードの長さぎりぎりまで来たのをスルーして話した。
「子供の頃からな」
「苦手なんだな」
「それなのにな」
 犬は苦手だがというのだ。
「好かれるんだよ」
「大体何で犬が苦手なんだ」
「子供の頃勝海舟さんの伝記読んだんだよ」
 幕末のこの人物のというのだ。
「あの人子供の頃犬に襲われたんだよ」
「そうだったんだな」
「それで襲われた時にな」
「大怪我負ったのか」
「死にそうになる位のな、タマがな」
「まさかと思うが」
「出そうになる位のな」 
 そこまでのというのだ。
「大怪我だったんだよ」
「そりゃ怖いな」
 友人はその話に男として真っ青になって応えた。
「よく生きていたな」
「実際死にそうになったんだよ」
「今言った通りか」
「その話読んでな」
「犬が苦手になったんだな」
「犬を見るとな」
 それだけでというのだ。
「俺もタマがな」
「心配になるか」
「今はそんなことないと思うけれどな」
「勝海舟さんの運が悪過ぎたんだろ」
「多分な、この人のこのことからな」
 犬に襲われ死にかけたことからというのだ。
「犬が怖くて仕方なくなったそうだな」
「それは当然だな」
「それでな」
「お前もか」
「どうもな」
 犬はというのだ。
「そういうことだよ」
「成程な」
「それでもな」
「犬に懐かれるんだな」
「子供の頃からどういう訳かな」
 こうしたことを言っていた、しかし。
 ある日だ、その彼の前に。
「キャンキャン」
「げっ!?」
 一匹の白いポメラニアンが来た、見れば。
 首輪にはリードがある、そのポメラニアンがだ。
 彼の前に駆けてきてすぐにひっくり返った、そうして。
 腹を見せてきた、このことに彼はまた犬かと思ったがここで。
 茶色のセミロングの髪の毛で前髪を真ん中に寄せて額を隠している垂れ目の一五〇位の背の女性が来た。ロングスカートとセーターが上品な感じだ。
 その彼女がだ、犬のところに来て言った。
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