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或る皇国将校の回想録
第六部 将家・領民・国民
第八十二話 指し手はもう一人
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方に問います。貴方は一体何をもって、舞台を作り上げる為の舞台に上がるのか」


 
「弓月茜、俺は半端な人間だ、 強固な棟梁として振舞いにおいては守原英康に及ばず。世俗を掌握し、大衆と貴人の心を揺り動かす能力においては大殿――駒城篤胤公に遠く及ばず。大衆を揺り動かす革新とそれに対し超然と振舞おうとする意志の力においては新城直衛に及ばず、良き頭領として振舞う徳の力においては若殿様に遠く及ばず」
 ほう、と息をつぐ。
「――俺は恵まれた生れだ、それは自慢でもあり怖くもある。恵まれた教育を受け、良き範となる人々に囲まれた。あぁ上を見ると自身が多少の恵まれた才を持っていても遠く及ばない、あぁそれでも――」
 何かを思い出すように天井の梁の先を見ようとするかのように天井へ視線を向けた。
「”御国の歩むべき先が見える”と思っていた、であればそのように進むようにあってほしい、と思っていた。 五将家のように国を牛耳るのでもなく、大権をいずれ敷衍されるべき人々でもなく、半端な立ち位置であれば良き端役になりたかった。本当にそれだけさ。”特別な端役”として次の者に家を譲り、ちょっとした功績を残して”あの人は良い仕事をしたね”と言われたかった――それだけだよ」


「…………フフフッ」
 茜は楽しそうに笑い、張りつめた空気が弛緩する。
 豊久は長椅子に身を預けて唇を尖らせた。
「フフフッ、はないじゃないですか、ひどいなぁ」
 
「ごめんなさい…ずっと“いい子”にしてたのですね」
 茜がふわり、と微笑を浮かべて豊久の頬をなでる。
「……そうか、そうか、俺はずっと“いい子”にしていた、で言語化できてしまう、か。――尊敬はしていたけど、貴女の事がずっと怖かった、理由がよくわかったよ」
 ”いい子”と思われてたんじゃあ男は怖がるよ、と豊久が力なく笑い、茜がくすくすと笑う。

「それではいい子の貴方に改めて“私と悪いことをしませんか?”」


「唆すなぁ、酷いなぁ――あぁもう」
 豊久は頭を掻く。
 ――あぁそれではこうしましょう
「“悪い子のボクと結婚してくれるなら”」

 茜は眼を閉じる。 
 
「わるいひと――」
 
 豊久は声をあげて笑う。
「“いい子の豊久君”は軍人になる為に、ズルくて卑怯になる方法をたくさん勉強したからね」

 茜は“そこで照れ隠しをしなければ一流なんですけどね”と溜息をつくと立ち上がる。

「明日、皇都に戻ります。必ずご無事で凱旋式に参加なさってください」


 待った、待った、と豊久は手のひらを向ける。
「おっと、貴方は質問に答えていない」

 
「“たいへんけっこう、それでは一緒に遊びましょう”、」
 そして弓月茜は許嫁に艶やかに微笑し、帰路へと立った。

 残さ
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