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或る皇国将校の回想録
第六部 将家・領民・国民
第八十二話 指し手はもう一人
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女性を使う(・・)ことを考えるとは意外ではあるが――

「事後に改革が求められると私は思いますが――この戦争の為だけと考えるのなら非常に良い手です。問題は伯が戦争後に――」

「父の手ではありません、私の打った手筋です」
 茜は静かに豊久を見つめる。
「私も駒を持ち、盤面に立つということです」

 豊久は目を見開いた。
「莫迦な、何を考えているのです」 
 声にわずかに怒気がにじんでいる。

「私自身が盤面に参加する為に」

「貴女は質問に答えていない」
 豊久の声は許嫁に向けるものではなくなっていた、だが茜は静かにそれをいなす。

「答えました。私は私自身の為にこの冬の政争に手を出します、父の、弓月の為だけでも、もちろん、貴方の為だけでもなく、貴方はどうなのです」

 豊久は自身の髪をぐしゃり、と掻きまわす。
「…………わからない、何をしに来たのですか?」

「質問に答えてもらう為に」

「質問、質問ね、“貴方はどうですか?”か」

「えぇ、その通り」

 口を開こうとした豊久は、唇を舐め、唾を飲み込んだ。茜はそれを静かにじっと見つめる。

「質問に答えてください、“貴方はなぜ政争の盤面に立っているのですか”」

「自衛の為、馬堂の家を守る為」

「それだけですか?」

「それだけです」

「ではなぜ馬堂の御家を守るのです?」
 思わぬ追撃に豊久は目を細めて茜を見る。

 茜は溜息をついた。
「大辺様から文を受け取りました、作戦中の事も」

「………大辺に励まされました、もう大丈夫です」

 茜は頭を振った。
「私はそうは思いません、貴方の”病”は根深くなるだけです」

「病?これはまた」
 
「えぇ”病”です、北領からお戻りになったときから気にはなっていました。そして状況と共に貴方の病は悪くなる一方。もう潮時です、私は問わねばなりません、この冬が来る前に、政治の季節が訪れて皇都が煮立つ前に」
 茜は背筋を伸ばし、豊久の訝しむような視線を受け止めている。

「……何故家を守るのか?答えたはずですが」


「貴方は中堅官僚だと言いました、ですがそれならば駒州公から距離を取る必要はなかった」
 茜はそういいながらこつり、と豊久に向けて一歩歩む
「貴方は自分が国家暴力の管理者だと言いました、であれば“御家の為”の政争の為に戦争を歪めてはならなかった」
 こつり、とまた一歩
「貴方は自衛のため、家を守るためと言いました。ですが閨閥の為に政をめぐって争うのは中堅官僚のものでも、ましてや国家暴力の管理者の為すことではありません」
 そして茜は豊久の瞳を覗き込む。

「立場を、言葉を使い分けるのは当然の事、しかし”使い分ける主”の姿を見せて
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