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顔が歪んだ犬
第一章

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                顔が歪んだ犬
 獣医の蓮田秀幸は穏やか顔で茶色の髪をいつも清潔にしている痩せた青年だ、彼は大手の動物病院で働いていたが。
 あるボランティア団体が連れて来た犬を見て思わず顔を顰めさせた。
 その犬は黒く痩せたやや大型の犬で雑種と思われたが。
 顔の左が異様にへこみ歪んでいた、蓮田はその犬を見て団体のスタッフに尋ねた。
「この子事故か」
「前の飼い主がとんでもない人で」
 若い女性のスタッフは彼に曇った顔で答えた。
「いつもです」
「そうですか、これはです」
「酷いですよね」
「クゥ〜〜〜ン」
 犬は弱々しい声で鳴いた、見れば見る程だった。
 酷い怪我だった、顔は胡瓜の様に歪み。
 左目は潰れていた、彼はそれを見てさらに言った。
「詳しい診断が必要ですが」
「大丈夫ですか?」
「わかりません」
 こう答えるしかなかった。
「咀嚼出来ないですよね」
「お口の中も滅茶苦茶で」
「そうですよね」
「それで目も耳もです」
「左の方がですね」
「目は潰れていて」
 そしてというのだ。
「耳も」
「やはりそうですね」
「それでなんですが」
「ええ、出来る限りです」
 蓮田は沈痛な顔だが応えた。
「やってみます、ですが」
「もう、ですか」
「今診ただけでも酷いですから」
 それでというのだ。
「約束は出来ません」
「そうですか」
 スタッフは苦い顔だった、そして実際にだった。
 診察するとだった、彼は院長に話した。
「あの子、雄でラビという名前が付けられていますが」
「私も診たよ」
 初老の白い頭をオールバックにした彼もこう言った。
「かなり酷いね」
「そうですね、顔の左半分が粉砕状態で」
「骨も顎もだよ」
「粉々で」
「左目も破裂していて」
「左耳も鼓膜も潰れていて」
「穴も塞がれていてね」
「顔の左半分がです」
 まさにというのだ。
「複雑骨折です」
「粉砕状態のね」
「あまりにも酷い虐待を受けていましたね」
「傍目でもね」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「あの子は」
「治療してもね」
「かなりの治療費がかかり」
 そしてというのだ。
「それでもです」
「完治は難しいね」
「そうかと」 
 こう言うのだった、蓮田も。
「まさに」
「そうだね、では」
「安楽死もですね」
「考えよう」
「ラビ自身も痛そうですし」
「苦しみから解放することにもなるし」
「考えるべきですね」
 蓮田は院長にもこの話をした、そして実際にだった。
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