クイッククイックスロー
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挨拶している。
「すごい迷惑な歩き方してるな……」
狭い遊歩道を、左右に気ままに動き回る彼は、周囲の人々を道のわきに押しやり、自らの自由を謳歌している。
やがて、一部の野次馬たちが集まり、人だかりができていく。珍妙な恰好をした青年がわき目も降らずに踊っている様子を、多くの人々が撮影していた。
曲芸としては最高なシチュエーションなのだが、他人の迷惑にもなっている。あれは止めた方がいいのではないだろうか。
やがて、そんなピエロの前に二人組の警官が駆けつけてくる。
「ちょっと! 君!」
「クイッククイックスロークイッククイックスロー」
だが、ピエロの動きは止まらない。あえて手に持った傘を警官に近づけ、片方はそれによって身を一度引いた。
「おお……」
「ちょ、ちょっといいかな?」
めげない警官が、再び呼びかけている。
「クイッククイックスロークイッククイックスロー」
「あのね? 通行の邪魔になってるって通報がありましてね。ほら、道塞いじゃってるでしょ?」
確かに、ハルトから見ても彼は道を塞いでいる。……正確には、彼と、彼に群がる野次馬たちが。
「あっちの公園に広場があるからさ。そこでやってもらえるかな?」
警官は、すぐそばの見滝原公園を指さした。だが、ピエロはダンスを止めない。
痺れを切らした警官が、声を荒げる。
「聞いてるのか?」
「クイッククイックスロー……」
すると、ピエロはその動きを止めた。ようやく言うことを聞いてくれたかと警官たちが肩を撫で下ろすと、またダンスの動きを再開した。
「ちょ、ちょっと!」
「ああああああ!」
見ていられなくなったハルトは、ピエロと警官たちの間に割り込む。
「すいません、コイツ、何かあるとすぐ踊っちゃう人なんですよ!」
「ええ?」
怪訝な目つきの警官たち。また、野次馬たちは、ハルトが入ってきても撮影をやめない。
「すいませんほんと。あ、俺コイツと組んでる大道芸人です。たまにここの公園の噴水広場でやってるんで、暇な人は見に来てください。ほら、行くよ!」
ハルトはそう言いながら、ピエロの左手を掴む。
だがピエロは、右手で傘を上に向けた。
「ボン」
「いやボンじゃなくて! ほら、人様の迷惑だから、噴水広場行くよ!」
ハルトはそう言って、ピエロを引っ張っていく。だが、変わらず「クイッククイックスロー」と踊りだそうとするピエロを、力づくで制しながら公園の入り口を潜らせた。
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