悪意なき殺意
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「雪ノ下さん……」
「大分疲れているのね。貴女が学校で寝ているなんて、珍しい」
黒髪の少女、雪ノ下雪乃の言葉に、紗夜は「ええ」と頷いた。
「そうね。少し、疲れが溜まっているのよね」
「正月休みでそこまで弛んでいたの? 鬼の風紀委員が聞いてあきれるわ」
「……私だって、人間よ。そういう時もあるわ」
「貴女の口からそんな言葉が出てくるなんて。明日は雨かしら。いいえ、今ならまた雪が降りそうね」
雪乃の軽口も、耳に届かなかった。
紗夜は額に手を当てながら、深くため息をつく。
「貴女、まだ手の傷治ってないの?」
雪乃の言葉に、紗夜は額に当てていた手を見下ろす。手首のところを包帯で包んだそれ。紗夜はしかめた顔で見下ろす。
「ええ。……中々治らないわ」
「骨折じゃないのよね。少し長引きすぎじゃないかしら」
そういわれて、紗夜はこの傷___黒い、刺青のような紋章について疑問を思い返す。
「去年の……八月ぐらいだったかしら」
「もうすぐで半年よ。大抵の外傷なら治るのに」
「ええ。これは……」
紗夜は、脳内でこの刺青が出来たときのことを思い返す。
白と黒の熊を脳裏に思い浮かべたところで、雪乃は紗夜へ背中を向けた。
「部活?」
去ろうとする彼女へ言葉を向ける。
雪乃は頷く。
「奉仕部は今日から活動よ。まあ、相談なんてほとんどないけど」
「来るといいわね」
「ええ」
そういいながら、雪乃の姿は教室からいなくなった。
帰ろう。そう決めた紗夜もまた、荷物をまとめ始めた。
「ゲート発見」
だが、廊下で、紗夜はそんな声をかけられた。
振り向けばそこには、用務員の姿があった。
学校でもよく見かける顔。年配で、ずいぶん優しい笑顔を向けてくれる印象があった彼だが、今回はなぜか危険を感じさせる笑みを浮かべていた。
「逃げるなよ」
はたしてそれは自分へ向けられているのか。
それさえも分からないまま、彼はじりじりと紗夜との距離を縮めていく。
恐怖を感じた紗夜は、そのまま廊下を走る。
普段自分が注意している行動をしながらも、それが間違いではないと、背後で走ってくる用務員を見て確信する。
やがて、階段でつまずき転倒。踊り場に背中を預けながら、紗夜は近づく用務員へ抵抗出来ずにいた。
そして、見た。
用務員の全身に、不気味な紋様が浮かび上がるのを。そしてそれに準じて、体が変化していくのを。
「さあ、絶望して新たなファントムを生み出……」
そこまで言ったところで、彼の言葉は途絶えた。
胸を貫く銀色。それは刃。間違いなく、心臓を貫いている。
それは、歪な姿に変わろ
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