特別編 追憶の百竜夜行 其の十一
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身が激しく執着しているプケプケに会えると聞いて、新大陸から海を渡ってこの砦まで来た彼女としては、今の状況に憤らずにはいられないのである。
かつては北方の貴族令嬢だった彼女は、プケプケが持つ独特の愛嬌に魅入られて以来、装備の全てをその系統で揃えるほどの偏執ぶりを発揮するようになっていた。そんな彼女だからこそ、「標的」に出会えなかった時の苛立ちの激しさは、計り知れないのである。
「八つ当たりが過ぎる……」
「本当に相変わらずだねぇ、あいつも……」
「腕は確かだけど……やっぱり変人」
新大陸に行ってからも全く変わっていなかった同期の嗜好には、エルネアだけでなくディードやイスミも、呆れ顔になるばかりであった。理不尽に怒り散らしながらも卓越した技量を披露している、というギャップも、彼らのため息を加速させている。
「皆っ! ため息なんて良くないぞ! さぁっ、俺の旋律でいつもの元気を取り戻すんだっ!」
「ム、ムスケル……お前も来てたのか」
だが、彼女の変人ぶりをさらに超越する「剛の者」が現れた瞬間。ディード達はため息すら忘れ、なんとも言えない表情を浮かべていた。
筋骨逞しい肉体を強調するアルブーロシリーズの防具を身に纏い、カムラノ鉄笛Iを振るってジンオウガの頭部を殴打しながら現れたのは――同期随一の体躯と筋肉量を誇る、ムスケル・マルソー。
「どうだい!? 攻撃力強化を齎す、俺の戦慄ッ! この輝かしき音色と、鍛え抜かれた魅惑のボデェー!」
「いや筋肉は関係ないんだが……」
やや暑苦しくはあれど、誰もが認める情に厚い好漢ではあるのだが。防御力よりも鍛え抜かれた肉体美を優先するその一面と、外観に反した可憐な声色のせいで、屈指の変人としての地位を欲しいままにしているのである。
だが、変わり者ではあれど、その実力は紛れもなく本物であった。防具というよりは装飾品のような印象を受けるアルブーロシリーズでありながら、その身体にはほとんど傷がない。
つまり、それだけダメージを受けることなく立ち回ってきたということなのである。アダイトを筆頭に多くの同期達が参戦してから、すでにかなりの時間が経過しているはずなのに、それでもムスケルだけはほぼ無傷で戦闘を続行していたのだ。
「フフッ……甘い甘い、鍛え方が甘いなぁ! そんなことでは俺を倒すことも、この艶やかなメロディを止めることもできんぞッ!」
それは決して、後方支援に徹していたから傷を負わなかった、ということではない。現に彼は雷狼竜が放つ放電の雨を掻い潜りながら、帯電している頭部に真っ向から狩猟笛を叩き付けている。
近接戦闘にも精通していなければ、到底実現出来ない芸当だ。彼が振るう痛烈な一撃によって、ジンオウガの角がへし折られた瞬間、その全身に纏っていた電流も
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