特別編 追憶の百竜夜行 其の十
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命を賭けたヤツマの演奏。その魂ごと絞り出すかのような音色は、最も門に近い後方の戦線にも届いていた。
「……!」
「ふへぇ〜? ディノひゃん、どうしたんでひゅかぁ〜?」
防衛線の維持をクリスティアーネとベレッタに任せつつ、ノーラの手当てに徹していたディノも。その演奏がヤツマによるものと気付き、手を止めている。
(ヤツマ……!?)
現場を見ずとも、その音色を耳にすれば、最前線で何が起きているのかは容易に想像がつく。そこでヤツマの身に、何が起きたのかも。
だからこそディノは、唇を噛み締めているのだ。出来ることならば、今すぐにでも彼の元に駆け付けるのに、と。
――同期達の中でも一際臆病だったヤツマは、訓練所時代においても成績優秀とは言えず。カツユキやビオのようなストイックなタイプからは、厳しい指摘を受けることも少なくはなかった。
が、その中でもディノの「当たり」は特に強かったのである。泣き言が絶えないヤツマに、「なら辞めろ」と迫ったのは一度や二度ではない。そのことで、アダイトやウツシと言い争いになったこともあった。
そのヤツマが。己の犠牲も厭わず、ただ仲間達の勝利に貢献するために、死力を尽くしたのである。それは、かつての彼をよく知る者達ほど、衝撃的な事実だったのだ。
カツユキも、ビオも、彼の弱さを知る他の同期達も。その音色と献身に心を打たれ、旋律が生む効果以上に戦意を掻き立てられている。その中で最も強く、心の芯から揺さぶられていたのが、ディノなのだ。
心優しく、臆病。それは本来、ハンターという職業に要求される資質からは最も遠い性格だ。
そうと知りながらヤツマは、兄の想いを継ぐためにその装備を受け継ぎ、ハンターを志したのである。不得手と知りながら、モンスターのみならず弱い己とも戦おうとする彼の姿は、ディノにとっても敬意を表すべきものだった。
だが現実は厳しく、ヤツマは臆病者という周囲の認識を払拭することは叶わなかった。だからディノは、彼を辞めさせようとしていたのである。
自分以外の誰かのために、そこまで身を粉にできるような人間が、不向きな仕事で命を落とす。それこそあってはならないことだと、心を鬼にして。
だが、器用な接し方を苦手とするディノの語彙では、厳しい叱責にしかならず。それは結果として、不要な衝突を生むばかりであった。
そして皮肉なことに、そんな訓練所時代の日々が彼をここまで強くしてしまったのである。ヤツマ自身が望んでいた、資質の差を跳ね除けるほどの強さが、身に付いていたのだ。
(……俺は、あいつを信じきれていなかった。ヤツマの可能性よりも、あいつの命だけを優先した。だが奴は、己の力でその可能性を掴み取って見せた。俺の危惧など……未熟な小僧の浅慮に過ぎなかったの
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