第五章
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「今でもね」
「建て替えた球場でか」
「そうしてるのよ」
「それでか」
「ひいお祖父ちゃん行こう」
まだ立ったばかりの曾孫は笑顔で言った。
「今からね」
「そうするか」
「そうしようね」
曾孫は笑顔で応えた、それで彼は曾孫を連れて球場に行ってみた。そして。
その球場を見てだ、彼は驚いて言った。
「変わったな、というか別ものだな」
「どうしたの?」
「いや、ひいお祖父ちゃんは昔何度もここに来たんだ」
「そうだったの」
「ここでプロ野球の試合もしていてな」
「そうだったんだ」
「ひいお祖父ちゃんが子供の頃な」
その頃のことを言うのだった。
「結構行ってたんだ」
「ひいお祖父ちゃんが子供の頃って」
「もうずっと昔だよ」
曾孫に笑って話した。
「それはな」
「僕が生まれる前?」
「ずっと前だよ、あの座りにくい席もな」
見ればそれもだった。
「座りやすくなってるな、トイレもな」
「おトイレも?」
「変わったな」
汲み取りではなくなっていた。
「それですかっとしてるな」
「すかっとって」
「昔は全然違ってじめじめしていたんだ」
このことも思い出した。
「ここは」
「そんなにじめじめしてるかな」
「昔はそうだったんだ、もうあの球場じゃないんだな」
記憶にある川崎球場とはというのだ。
「ここは」
「ひいお祖父ちゃんの知ってるところじゃないんだ」
「別のところだよ、いや本当に変わったんだな」
昴はしみじみとしてこうも言った。
「今は、それでここは好きか?」
「大好きだよ、奇麗で広くて賑やかで」
曾孫は彼に笑顔で話した。
「お父さんとお母さんにもよく連れて来てもらっているんだ」
「そうか、じゃあいつもここに来るといいな。ひいお祖父ちゃんも連れて来てやる」
「今みたいにだね」
「そうしてやる、それでいいな」
「いいよ、じゃあ今からここで色々見ようね」
「そうしような」
すっかり変わった球場の中で曾孫に応えた。
もうかつての川崎球場は何処にもなかった、だが昴は曾孫を連れてその目にその球場を見ていた。今の姿を見ながらそうしていた。過去に別れを告げたが今はその過去を見ていた。そうして自然と笑顔になった。
さらば懐かしい日々 完
2021・2・16
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