第一章
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さらば懐かしい日々
橋野昴はこの時うきうきとして電車に乗っていた、そうして一緒に乗っている父の茂にこう言った。
「父ちゃん、今日は勝つかな」
「勝てばいいな」
父はまだ小学生の息子に笑って返した。
「大洋がな」
「そうだよね」
「ああ、しかし大洋もな」
「そうそう勝たないよね」
「弱いからな、大洋」
父は電車の中で苦笑いになって言った。
「本当にな」
「何で弱いんだろうね」
「そりゃいい選手が少なくてやる気もないからだ」
「それでなんだ」
「だからな」
「いつも負けるんだ」
「巨人なんかが勝つんだ」
全人類普遍の敵にして戦後日本のモラルの低下そして病理の象徴と言うしかないこのチームがというのだ。
「そうなっているんだ」
「大洋が弱いからなんだ」
「ああ、しかし今日はな」
父は隣にいる息子に話した。まだ小学五年生の彼に。四角い顔と細い目は親子でそっくりだった。だが息子は丸坊主で父は角刈りで息子の半ズボン姿は小学生らしいものだった。
「相手は広島だからな」
「広島も弱いよね」
「だからな」
それでというのだ。
「勝つかもな」
「大洋勝てばいいね」
「本当にな」
川崎に向かう電車の中で話した、その電車は国鉄だった。
その電車から降りて川崎球場に行くとだった。
トイレは汲み取りでやけに暗く席も少し古い感じだ、照明は光の加減で七色に見えかつ少しぼやけている。
その照明の中で照らされる試合を観ている客はあまりいなかった、少なくとも憎むべき巨人戦よりはだ。
その試合は大洋有利に進んでいた、そして最後は大洋の勝利で終わったが。
昴は試合が終わってから父に言った。
「何度もこの球場来てるけれどぼろいね」
「ああ、川崎球場はな」
「前に後楽園に行ったけれど」
それでもというのだ。
「後楽園と比べたらね」
「ずっとだな」
「うん、ぼろいね。それに小さいしトイレも汚いし」
「ははは、ここはこうなんだ」
父は息子に笑って返した。
「出来た時からな」
「そうなんだ」
「巨人は金持ってるからあんないい球場なんだ」
「それで大洋はお金ないからかな」
「ああ、巨人と比べるとずっとな」
それでというのだ。
「球場もぼろいんだ」
「そうなんだね」
「そうだ、けれどここが太陽の球場なんだ」
自分達が応援しているチームのというのだ。
「そう思うと悪くないだろ」
「そうだね、じゃあまたここにね」
「ああ、そうしような」
こうした話を試合が終わってから楽しくしてだった、昴は父と共に家に帰った。すると母が待っていて一家で野球の話をした。
昴が大人になると川崎球場はロッテの本拠地になっていた、それで昴は大洋の新たな本
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