episode16『泣いた赤鬼』
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経験からこうなってしまったのだとしても、そんなことはシンには関係ない。
こいつが誰であろうと、何であろうと。
スルトル・ギガンツ・ムスペルは、この孤児院の家族たちにとって、ヒナミにとって、シンにとって、ただの害ある敵でしかないのだから。
「ッ、はァ……!12番ッ!!」
「はい」
スルトルがそう番号を叫ぶと、いつの間にやら傍へとやってきていたらしい、彼の相方魔女が応答を返す。もはやその関係はパートナーのソレには見えない、主と奴隷――いいや、人間と道具だ。
「精錬開始、この世全てを焔に沈めんッ!!」
「精錬許可、世界へ紅き救済を」
それは起動句。製鉄師が己の内に秘めた世界をこの物質界に現界させんとする際に謳い上げる、約束の祝詞。スルトル・ギガンツ・ムスペルの世界を埋め尽くす紅蓮の炎をこの世界へと溢れ出させるための、始まりの言葉。
「我が後悔、我が苦痛、我が復讐!世界を塗り替え、転覆し、踏み付けにするその時を!我が祈りを以って、この世に貫かん!!」
スルトルを取り巻く炎が膨れ上がる。ぐんと周辺の熱量が上がって、降り注いだ積雪がより広い範囲で溶けて水になった。
辺りに広がる水たまりは沸騰をはじめ、数秒もせずに蒸発しきる。冬の寒空とは思えないほど外気温は高まって、じりじりと陽炎が揺らいだ。
『有詠唱』――製鉄師にとっての切り札。己が抱える世界の真髄を引き摺り出す、正真正銘の奥の手。
「振鉄――『世界灼く炎よ、生誕の刻だ』ァッ!!」
それは、まさに地獄のような光景だった。
スルトルと魔女の少女を核として、一対の炎の翼が広がっていく。いや、或いはそれは触れるもの全てを融解させる、滅びの腕でもあるのだろう。
大地を支えにするかのようにその腕を突いた辺り一帯が、瞬きの内にドロドロに溶けて腕を沈ませる。支えにもならない大地に苛立ったかのようにその両腕を構えた焔の巨人は、巨木ほどもあるそれを乱雑に振り回そうと――。
「まずい」
あんなものを振り回されては、被害は教会だけに収まらない。今でこそ教会前の広場で交戦しているから被害は抑えられているが、あの様子では辺り一帯の住宅地が消炭になりかねない……と、両の脚に力を込めたその時。
――結果から言って、その心配は杞憂に終わった。
「――ぁ?」
ぶつり、と音でも立てていそうな様子で、両の腕が根元から千切れ飛んだ。
肩に当たる部位には何かに貫かれたかのように大穴が開いており、炎が晴れて両腕は端から徐々に消失し
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