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幻の旋律
第五話 ロミオとジュリエット
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組長が店から出てくるのを待ち伏せしていたかのように、車がやってき、自動小銃で撃たれ車はするさま去った。血だらけの組長は、その穴だらけの扉に寄りかかっていた。
最後の力を振り絞り、葉巻に火をつけくわえた。

「俺の人生には未練なんてないぜ・・・
なあ、良蔵爺さんよ・・
やがて、あの鉄橋もいずれ完成するしな・・」
「でも、麗子・・お前を不幸にさせてしまったな・・」
組長は過去を振り返り始めた。
 
 平賀源内は、三池炭坑の発掘の仕事をしていた。中卒の彼は、ただがむしゃらに仕事をしていた。彼の楽しみは、仕事後のクラブに行くことだ。その店の名はクラブ「ルジャンドル」薄汚れていたが当時ロカビリー音楽が大流行、デビュー前のインデーズパンクロックらが出入りし演奏していた。その中で有名だったのが「THE MODS」である。平賀はそれを聞くのが大好きだった。ライブを終え、その日は、友達とカウンターで飲んでいた。

「オイ、大成!やはり「MODS」は最高だぜ!」
「平賀!特に、あの「ロミオとジュリエット」・・がいいよな・・」
「黒いレザーに抱かれた・・・あの最後の歌詞、たまらないぜ・・」
「お前は、頭が悪いが、感性だけは鋭いからなハハハハ」
「歌詞の影にはドラマが潜んでるだぜ・・」
「ハハハハハお前、詩人みたいな事を言いやがって!イカス男だぜ!」

「おい!どうした?」
平賀は、ある女を見ていた。
「いや、あの子・・可愛いな・・」
「ああ・・やめとけよ・・俺達は住む世界が違いすぎるぜ・・」
「あの子を知ってるのか?」
「ああ・・画家の一人娘だぜ・・お嬢様だぜ・・」
「そうか・・」
その子は、クラブのバックドアで一人立っていた。どうも店の中まで入れないようである。迷わず平賀は席を立った。
「おい!まさか!止めとけ!・・」

「なあ・・俺と飲まないか・・緊張しなくていい・・」
「え!?・・」

平賀の勢い押され、麗子は従った。これは二人の出会いである。その後二人は交際を始めたが、麗子の両親は賛成するはずもない。麗子は家の反対を押し切り、家を出て、平賀と二人で暮らした。二人にはお金がなかったが、ささやかな幸せであった。しかし、そんなある日、麗子は妊娠した。

「今の、俺の仕事では・・三人での生活はできない・・」
「無理をしないで・・何とかなるわよ・・」

そう麗子は微笑むだけであった。しかしそれどころか三池炭坑は閉山した。中卒の彼だからこそ就職先など何処にもなかった。窮地に立たされた平賀は、ある決意をした。信用金庫の強盗だ。しかしすぐさまパトカーに追われ、逮捕された。

組長は我に返り葉巻を吹かした。

「お前の葬式に行ったが、線香すら上げさせてもらえなかった・・
でも・・俺達の娘があんな立派に成長した
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