第一章 幽々子オブイエスタデイ
第2話 月の守護者と兆候:後編
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するとそこにカッターの刃を進めたかのように真横に伸びる線が現れ──そして猫化の動物の眼のような形に開かれたのだ。そして小石はその中へと吸い込まれていった。
これが月の結界の入り口なのである。
「あの石が地上に落ちていったように、水に映った星から地上の生き物、たとえば鳥なんかが沸いて出てくるかもしれない。
貴方は兎たちの稽古で忙しいかもしれないけど……。
私は貴方が動くかこのへんに地上から何者かが現れるまで──やることないのよね」
と、豊姫はおちゃらけて締めくくった。
「……」
それを依姫は何とも言えないといった表情を浮かべながら聞いていた。
「地上の生き物なんて滅多に来ませんが……じゃあ鴉なんかが月に迷い込んだりしたら、お姉様も兎と一緒に稽古するなり本気を出してくださいね」
「最近 桃食べすぎですから」
「……」
「……」
「ん?」
「……」
そんな言葉なきシュールなやりとりでこの場は幕を閉じた。
──しかし、豊姫は以前まさに『迷い込んだ鴉』と対峙していたのである。とある人物の式の鴉とである。
そして、豊姫は自分の能力を使い鴉の周りを真空状態にして……息の根を止めたのだ。
やむを得ない事だったのだ。地上の生き物に月の都に安易に入り込まれたら、都の安全が脅かされかねないのだから。
依姫に対しては『桃の食べすぎ』だとおどけて見せてはぐらかしたのである。
それを依姫に知られたくはなかったからである。何故なら彼女は無益な殺生を好まない性質だからだ。
気丈に振る舞う依姫であるが、先程姉の身を案じたように、完全な鋼のような精神を持っている訳ではなく、桜のように『儚い』一面もあるのである。彼女が武人気質であれど……いや、武人性を秘めているからこそ儚さを持っているのであった。
だが、武人性を本当に大切にしてるからこそ、他の人のやり方は尊重するだろう。故にもし豊姫が鴉を殺した事を知れば、依姫は自分の信条と姉のやった事を咎めたくはないという理想と現実の狭間で苦悩する事となっていただろう。
豊姫は普段は桃を追い回したりして、脳天気に振る舞っているが、実際は切れ者なのである。だから、道化を演じる事で依姫に余計な負担を与えないという配慮を見せたのだ。
そう、依姫の今がある陰には豊姫の存在なくしてはあり得ないのであった。
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