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馬との別れ
第三章

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 その馬が随分印象に残ってそこにいた三十代後半位のラテン系の顔立ちのカウボーイに尋ねた。
「この子は」
「ああ、セレーノですか」 
 カウボーイはその白馬を見つつ彼に応えた。
「この子は元々弟の馬だったんです」
「弟さんのですか」
「ええ、この牧場で一緒に働いていてロデオの選手でもあって」
 カウボーイはさらに話した。
「ワーグナー=リマ=フィゲイレドっていいました、私はシューマンといいます」
「そうでしたか」
「ええ、去年交通事故で亡くなって。三十四歳でした」
「お若いですね」
「全くですよ、それでこいつはその時です」
 カウボーイはセレーノの首を優しく撫でつつタイラーに話した。
「凄く悲しんで。棺に身体を摺り寄せて涙を流して」
「泣いていたんですか」
「蹄を地面に叩きつけて声もあげて泣いて」
 そうもしてというのだ。
「俺達と同じだけ悲しんでいました」
「いい子ですね」
「それで俺が引き取って育てていますがやっとです」
 カウボーイはセレーノの首を撫で続けつつタイラーにさらに話した。
「落ち着いてくれました」
「そうですか」
「最近になって。ずっと悲しんでいましたが」
「それだけ弟さんに大事にされていて」
「愛情を持っていたんですね」
「そうですね」
「ええ、いい奴ですよ」 
 セレーノを愛し気な目で見ての言葉だ。
「ですからこれからも」
「悲しみを乗り越えたので」
「幸せにしてやります」
「そうされますか」
「絶対に」
「そうですか、応援させてもらいます」 
 タイラーはここまで聞いてだった。
 カウボーイにこう言った、そしてセレーノにも声をかけた。
「君も頑張ってね」
「ヒヒン」
 一声鳴いて応えた、タイラーはその声を聞いて笑顔になった。そしてこの話を土産にイギリスに戻ったのだった。老婆のこととセレーノのことは彼の馬についての最高の印象になった。


馬との別れ   完


                 2021・5・27
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