夢海、夢見る
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ように思えた。
次の日から、夢海は学校からいなくなった。待ち合わせ場所――彼女の家の前で、一限目が始まるまで待っていたのだが、やはり夢海は現れなかったし、今日は休むというメールも来なかった。彼は渋々二限間目から学校に来て授業を受けた。昨日までの自分ならば、夢海の事を心のなかで散々罵倒しただろうが、今はそんなことをする気にはなれなかった。それはきっと、難しい病気を持つ彼女に同情したからだろう。雨に打たれる小汚い犬に抱く感情と同じものだ。
夢海の居ない学校生活というのは、かくも充実するのかと思い知らされる。彼女がいると、休み時間はいつも自分の机の周りにまとわりつくし、昼飯は一緒に食べないといけないし、トイレにも付き添わなければいけなくなる。夢海は、一日で百回くらい三島に「迷惑かけてごめんねぇ」と謝り、彼はその謝罪に対しても心をいらつかせる。
今の彼はとても清々しい気持ちだったし、苛立ちは少しもなかった。ただ、強いて難点を上げるならば、あまりにも心が軽すぎて、自分が本当に自分なのか、分からなくなってしまう事が一人になるたびに起こった。
これは一体どういう事だろう。三島はチクっと来る自分の心を前にして考え込む。その小さな痛みは、確実に彼の心のなかに堆積していっていた。夢海が学校に来なくなってから三日経って、彼はその痛みがいわゆる「孤独」であることを、自販機でココアを買った瞬間に理解した。
こんなにも不可解なことがあろうか。自分は、あの鬱陶しい幼なじみが消えて、寂しいと心のなかで思っていたのである。その寂しさに気づいてしまってからは、もう駄目だった。辺りの風景は急に色をなくし、気さくに話しかけてきてくれた友達の声は、急速に遠のいていった。そして、夢海が居ないことに少しも不便を感じていない多くの十七才に対して、言いようのない憤りを覚えたのである。
彼は学校の帰り、家には向かわず、そのまま夢海の家のドアを叩いた。誰も応答してくれなかったので、ずーっと叩いていた。インターフォンだって何度も押した。だが、夢海は居なかった。彼女は、忽然と姿を消してしまったのだ。
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