夢海、夢見る
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と思う。自分は彼女のことを全て知っているようで、本当は何も知らなかったのだ。
踏切を通りかかったとき、渡りきってから彼女の姿がないことに気がついた。三島は自転車を荒々しく放り出すと、踏切の真ん中で佇む夢海の事を見つけた。タイミングを見計らったみたいに、警報が鳴り始める。彼女は再び夢の世界に浸っているようだった。その目には、光がない。
三島は踏切を飛び越えると。線路の中へ入っていった。遠くのほうで、電車が走る音が聞こえる。彼は立ち竦む夢海を前にして、彼女を起こすことを躊躇った。夢海の夢を共有した今、そこがいかに素晴らしい場所かを知ってしまった今、彼女曰く「辛い現実」に彼女を引きずり戻してしまうのは、良心が咎めた。彼女が最近、その自失の回数を増やしていっているのは、彼女の無言の訴えではなかろうか。「私を放っておいて」と言う。
三島は手を下ろす。
夢海の長い影を電車のフロントライトが描き出し、それは三島の目の前で行われた。筆舌に尽くし難い衝突音と、ブレーキの甲高い音。夏の空に吸い込まれるようにして、天高く鳴り響く。爆散した血液が、三島の制服を染めた。
これが彼女の望んだ結果なのだろうか。
三島は今更ながらに恐ろしくなり、がたがたと震えた。
こんな悲惨な結末を彼女は望んでいたのか。不自然に身を捩らせる――捻曲げる彼女のうつろな瞳からは何も汲み取ることが出来なかった。歯はガタガタになり、片目が潰れている。道路との激しい接触のせいで鼻が削げ落ちているではないか。そこに人間の顔があった事にさえ疑問を覚えてしまう。
強いクラクションの音で三島は眼を覚ました。そこは、まだ学校の前の信号だったのだ。三島と夢海はスポーツカーの強いライトによって照らし出されていた。夢海は……無事だった。彼女は相変わらずぼけーっとした顔で、三島のことを見上げている。彼は夢海の手をとると、乱暴に引っ張って横断歩道を渡った。そして、彼女がちゃんと生きていることを確認して、深いため息を吐いた。自分は、また夢海によって夢を見せられていたんだ。彼女がどうしてあんな悲惨な夢をこれ見よがしに三島へ突きつけたのか、分からなかった。
夢海と三島は言葉を交わすこと無く、歩いた。歩いている間、三島にはある疑問が生まれていた。
この世界は、果たして本当の世界なのだろうか?
この世界もまた、夢海が勝手に創りだした幻想なのではないか。彼は横目で夢海を見た。彼女の顔を見ると、事故直後の潰れた顔を思い出してしまい、胸が苦しくなった。もしかしたら、夢海はいつもこのような「非現実感」を胸に抱えて生きているのではないだろうか。この世界が本物であるという確信を持てぬまま、三島に背中をせっつかれて、仕方なく人生という道を歩いているんじゃないか。
それは、彼が想像するよりもずっと過酷なことの
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