夢海、夢見る
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と、幾分鬱憤も晴れた。それに、隣に夢海がいないと言うのは、彼の心を軽くさせた。夢海の歩調に合わせることもない。人ごみの時、彼女の手を取る必要もない。バスに乗るとき席を譲る必要も無い。こうしてみると、いかに自分が彼女によって束縛されていたかがよく分かった。
時刻が午後七時を回った頃、母が三島の部屋に入ってきた。熱心に勉強していた彼の頭を強く叩いた。それはあまりにも唐突に起こったことで、彼の視界に花火が舞った。
「どうして一人で帰ってきたの!?」
凄い剣幕で母親が彼の前襟をつかんだ。三島は自分がどうして怒られているのか、この時になっても理解することができず、普段は温厚な母親が激怒している姿に、ただただ恐怖の念をいだいていた。
「まだ夢海ちゃんが帰ってないって電話があったの! ねえ! 夢海ちゃんと必ず一緒に帰って来るって約束したわよね!?」
母親は狂ったように三島の事を揺さぶった。
夢見が帰っていない? 彼は理解した。夢海が今も図書館にいることを。彼女は見つけられること無く、今もあの場所で彫像のように佇んでいるのだ。それに対して三島が申し訳ないと思うことはなかった。彼の心を支配していたのは、自分をこんな目に遭わせた夢海への憎しみだけだった。
最初に約束を破ったのはあいつだ。自分は全く悪くない。
三島はこの期に及んでそう言う確信をいだいていたのだ。
彼は母親の手を振り払うと、迎えに行ってくると吐き捨てて家を出た。このままでは自分の立場が悪くなる一方だ。せめて夢海を連れ帰って挽回しないと。
自転車に乗っている最中、夢海への罵詈雑言を呪詛のように呟いた。あいつが変な病気を持っているせいで、自分はかなり多くの時間を縛られることになった。クラスメートからは変な目で見られるし、夢海はクラスで浮いているのだ。休み時間に図書室に隠るくせがあるのもそのせいだ。
たしかに自分はかつて夢海のことを兄妹のように慕っていた。夢海も自分のことを同じように思っていたと思う。だが、ある時から彼女の存在は自分にとって邪魔でしか無くなってしまった。それは、彼女が奇病を患う前から起こっていたことで、彼女の病気が切っ掛けなわけではない。むしろ、彼女の病気は自分が彼女から離れられない理由となってしまったのだ。
学校に到着すると、今まさに事務員が校門を施錠している最中だった。彼はまだ学校の中に人がいることを説明すると、特別に十分だけ待ってもらうことができた。先導しようとする事務員を丁重に断り、一人で図書館までやってくる。
灯は全て消されており、いつもは気にしたこともない本特有のカビとノリの臭いがした。図書館の一番奥の書架の前に、彼女の姿があった。こちらに背を向けて、本をギュッと抱きしめている。三島は彼女に触れないよう、背中を壁にくっつけながら、彼女
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