夢海、夢見る
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てクラスメートの「あいつら二人でなにしてたのかな?」という下世話なひそひそ話も。
「あ、あの先生。三島くんは悪くないんです」
と庇ってくる夢海を、彼はとても疎ましく感じて、彼女のことを睨んだ。
下校も夢海と一緒でなければならないのだが、彼女は六時間目が終わった途端、教室から姿を消した。
ホームルームにやって来た担任が、彼女の姿が見えないことを不審に思っている。夢海は成績優秀であり、素行も良好なので、サボったとは誰も思わなかった。
またどこかで「停止」しているのかもしれない。
三島は空席になった彼女の席を見て、そう思った。
ホームルームが終わると、三島は夢海の鞄を持って教室を出た。トイレだろうか? 彼は途中で会ったクラスメートに、夢海が女子トイレの中にいないか見てもらった。その頼みごとをしたとき、相手は怪訝な顔をしていたが、三島が「夢海がハンカチを忘れてさ」と、自分のハンカチをあたかも彼女のものであるかのように泳がせると、彼女も納得してくれた。
トイレの中には居ないよと言われて、三島はすっかり困窮してしまった。他に彼女がいそうな場所と言えば、渡り廊下にあるベンチや、屋上のフェンス前、どこも彼女にとっては危険な場所だ。手当たりしだいに当たってみようかと考えたとき、彼はあることに気付いた。夢海の鞄がいつも以上に軽いのだ。悪いことだと知りつつも、これも夢海のためだと無理に自分を納得させ、彼女の鞄を開いた。
いつもは、彼女は文学全集をかばんの中に入れている。(三島は「本を読むな」と毎回注意するのだが、この約束も守ってくれない)
しかし今は、鞄の中には教科書類しか入っていなかった。
――まさか。
彼は再び図書館にやってくると、そこでまたもや夢海を発見したのだ。どうやら本を返しに来ていたらしい。全集をわが子のように抱きしめ立ち竦む彼女の姿が、図書館の奥の書架にあった。
周りの書架には海外の画家――ボッティチェリやミケラッジェロの画集がみっちりと詰まっていて、こんな場所に来るのは夢海くらいだろうと思った。そもそも、図書館自体が飲食禁止のせいで不況なのである。最近の高校生は活字を全く読まないから、ここを利用するのは昼寝に来たサボり魔か夢海くらいだ。三島もそのなかの一人だった。夢海がこんな場所に来なければ、自分はさっさと帰ることができたのに。また彼女は約束を破って、迷惑を掛けた。
彼女をゆすり起こそう、そう思って手を伸ばしたとき、三島の中にあるアイディアが浮かんだ。自分が彼女を起こさなくたって、図書館の管理人が閉館の時に起こすだろう。いつも甲斐甲斐しく起こしてしまうから夢海はそれに甘えてしまうんじゃないか。
彼は伸ばしていた手を引っ込めると踵を返した。
彼女は少しくらい痛い目を見たほうがいいんだ。そう自分を正当化する
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