始まりから夏休みまで
兄がやってくる話
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僕だ。
「うるさい。」
「…!?」
さっきから胸ぐらを掴んでいるその手を引き離す。
ぷるぷると震える手は、力が入っていることは分かるが今の僕にとってそれはなんてことない。
まさに赤子の手をひねるようなものだ。
「お前…なんだよ…なんだよその目…!!」
「ちょうしにのるな ぼくはもう おまえのあやつりにんぎょうじゃない。」
今度はこっちの番だ。
僕があいつの手首をつかみ、ギリギリと脂肪で肥えたその手首に指をくい込ませる。
「やめろ…やめろ!いてぇいてぇいてぇいてぇ!いてぇっつってんだろうがよ!!おい!!!」
「きたない つばを とばすな 。」
空いている手で兄の口元を掴む。
真ん丸な顔が歪んで、思わず笑いがこぼれそうになる。
でもなんだろう。
まるで、自分が自分じゃないみたいだ。
僕じゃない誰かを、僕が見ているような。
なんでだろう。すごく気分がいい。
「キミ達!何をしている!!」
その時、ハッとして我に返った。
見てみれば僕の方に二人の警官が走ってくる。
多分騒ぎを聞いて誰かが通報したんだろう。
そして隙を見て兄は僕の拘束から抜け出し、
「おまわりさん!!こいつが!こいつがぁ!!」
やってきた警官達に擦り寄り、涙やら鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして助けを求めた。
ああ、いつも、こんな感じだったな。
「分かったから落ち着きなさい。あとキミ!話は交番で聞くから着いてきなさい!」
「…。」
「聞こえてるのかい!?」
「あ…すいません…。」
ボーッとしていた。
さっきまでの僕は、一体なんだったんだろう。
自分では考えられないチカラが出て、そしたらいつの間にか兄を圧倒してて…。
僕は…何をしていた?
「目が!目が光ったんです!そしたらいきなり俺に襲いかかってきて…怖くて…怖くてぇ!!」
「分かった!分かったから!」
年甲斐もなく大泣きし、警官に鬱陶しがられながらも兄は保護された。
とまぁ、警官から見れば悪者は完全に僕だろう。
泣いて助けを求める兄、さっきまで兄を掴んでいた僕。
どちらが正しいか、選ぶのは前者に決まってる。
そういえば、昔もこんな感じだった。
ちょっかいをかけたりイタズラをしたりする兄にさすがの僕だって怒ったりする。
でも、何か少ししただけですぐに大泣きするし、当然兄の泣いてる声を聞けば両親は慌ててやってくる。
やられてたのは僕なのに、怒られるのも僕だった。
そうだ、僕はいつだって悪者だ。
兄を引き立てるための、道具だ。
兄のストレスを晴らすための、人形だ。
変わりたいから逃げてきたのに、
結果は何も変わらなかった。
僕は、あの時の僕のままだ。
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