第六章
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家に残ったのは二人だけになった、そうなると夫は妻に寂しそうに言った。
「毎日あれだけ大変だったのがな」
「女の子が五人もいてね」
「それで毎日目が回りそうで」
「心配も尽きなかったけれど」
「誰もいなくなると」
「寂しいわね」
「そうだな、空っぽになった気分だ」
夫は伽藍となった家の中を見回した、娘達が一緒だった時は狭くて仕方がなかった家が今では平野の様に広く感じる。
「もうな」
「そうよね」
「忙しくて大変で焦ってな」
「目の前のことをするだけでも大変だったけれど」
「皆いなくなると」
「空っぽになったわ」
「人生が終わった感じがするな」
夫は笑ってこうも言った。
「まだまだ先は長いが」
「あなたも私も定年はまだ先だし」
「ああ、けれどな」
「それでもね」
「何か本当に空っぽになったよ」
「お家も広過ぎるわ」
「二人だとな」
夫婦で娘達が全員独立した家の中を見回して話した、二人はそのまま定年まで働いて後は年金生活に入ったが。
娘達は結婚すると時々それぞれの夫や子供二人から見て孫達を連れて家に帰ってきた。すると二人は彼女達をにこにことして迎えていつも言った。
「二人で静かに暮らしたいんだがな」
「そんなにいつも来なくていいのよ」
「わし等はもう引退しているんだ」
「後は余生を過ごすだけだから」
「何言ってるの、そんな顔で言っても説得力ないわよ」
娘達は皆二人にこう言った。
「いつも私達が来るとにこにことして」
「そう言うけれどな」
「二人暮らしはいいものよ」
「静かでな」
「毎日そうだといいわよ」
「寂しい癖に」
五人の娘達は皆笑って言った。
「だから何かあったら来るわね」
「そんなのいいさ、それはそうとな」
「お小遣いあげないとね」
孫達を見てさらににこにことするのだった。
「お小遣いの後はお菓子出すわね」
「皆遠慮しなくていいぞ」
「全く、私達にはいつも怒ってたのに」
この言葉も五人全員が言った。
「孫には甘いんだから」
「何処が甘いんだ」
「全然そうなっていないわよ」
二人はそのことは否定した、そうしてだった。
時々来る娘達の家族を心から歓迎して過ごした、その時は娘達がいた時のことも思い出してそちらからも笑顔になった。大変だったが懐かしいあの時を思い出して。
五人の娘を 完
2020・12・16
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