第五章
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「普通に生きている人達よりも遥かに馬鹿だ」
「戦後最大の思想家と呼ばれていても」
「そうだ、あんな馬鹿の言葉も文章も目にする価値はない」
「そこまで程度が低いですか」
「そう思う、あんな馬鹿はもう二度と気にすることはない」
こう言って実際にこの者は二度と吉本の本を読まず言葉を聞くことはしなかった、そしてこの件から四半世紀程過ぎて。
オウム真理教が世を騒がした時に吉本がオウムの教祖を偉大な宗教家だの最も浄土に近い人だのいい新宿地下鉄サリン事件の遺族の話しか聞かないとまで言って何故サリンを撒いたかを知りたいと言った時にこの者はまた言った。
「よく見ろ、これが戦後最大の思想家だ」
「あの、どう見ても」
「馬鹿だな、吉本は」
「オウムのことは子供でもわかりますよ」
「その子供がわかることでもだ」
「わからないのがですか」
「吉本だ」
彼の知性だというのだ。
「とんでもない馬鹿だ」
「戦後最大の思想家と言われていても」
「この馬鹿が行き着いた先がな」
「オウムですか」
「そうだ、丸山について偉そうに言って」
「自分はこんな有様ですか」
「他人にたかがとか言ってな」
研究室、自分の全てを暴力で徹底的に踏み躙られた丸山のことをだ。
「それで自分はだ」
「こんなに馬鹿なんですね」
「オウムの犠牲者に対してもそうだな」
「その気持ちが全くわかっていなくて」
「わかろうともしていないな」
「はい、全く」
「人のことがわからなくて何が思想家だ」
吐き捨てた言葉だった。
「一体」
「まさにそうですね」
「それがこいつだ、そして子供未満の馬鹿がな」
「戦後最大の思想家ですか」
「そうだ、戦後の日本の知性は何なんだ」
吉本の様な輩がその代表の様に言われてきていることはというのだ。
「猿の方がましだ、こんな奴」
「ですね、嘆かわしいですね」
「本当にな」
吉本について忌々し気に言った、そしてだった。
二人で他のことを話した、それはもう思想ではなく巷のことであった。そのことを話してそれでその話を楽しんだ。もう吉本のことは何処にもなかった。
愚かな思想家 完
2020・12・15
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