第三章
[8]前話 [2]次話
「そう言わずして何を文化の破壊と言うのか」
「ですね、これは」
「まさに」
「もうそうとしか言えません」
周りもその惨状に苦々しく述べた。
「愚かなことです」
「こんなことをするなんて」
「全く以て」
「ファシスト達もこんなことをしなかった」
戦争をした彼等もというのだ、丸山が批判した。
「それをやるのか」
「酷いことです」
「これが学生運動ですか」
「革命ですな」
「そんなものは願い下げだ」
丸山は落胆しきった声で言った、そしてだった。
丸山はこの時から著しく英気を失い言葉を発さなくなった、健康も害しそうして大学教授の職も辞してしまった。
だが思想家の吉本隆明は丸山を見て言った。
「大袈裟だよ」
「大袈裟ですか」
「たかが大学生に研究室を踏み込まれただけだろ」
そも面長でやけに鼻の下が長い顔で言った。
「それでそんなこと言うなんてな」
「大袈裟だと」
「僕なんかは資料を手に入れる為に図書館の列にいつもずっと並んでいる、生活費を稼ぐ仕事の合間に研究しているんだ」
こう言うのだった。
「たかだか研究室を荒らされた位で」
「たかだかですか」
「さっきたかがと言ったけれど」
それでもというのだ。
「そうも言っていいだろうね」
「そういうものですか」
「彼は大学の教授でそこから収入を得ているんだ」
安定したそれをというのだ。
「僕なんか今言ったがね」
「生活費を稼ぐ為にですね」
「旗らして」
その仕事をしてというのだ。
「合間にそうしている、それでそんなこと言うなんて」
「大袈裟だと」
「そうだよ、本当にたかだかだ」
吉本は言い切った、だが。
その話を聞いたある者はこう言った。
「あいつは人の気持ちがわからないな」
「吉本隆明はですか」
「そうだ、考えようともしていない」
知り合いに否定そのものの顔で述べた。
「それも一切」
「そうなのですか」
「丸山さんは確かに大学教授で」
「安定した収入がある」
「それに対して吉本は自分で言っているが」
その吉本のことをさらに話した。
「在野でだ」
「はい、生活費は自分で、ですね」
「働いて得て」
「そうしてその合間にですね」
「学んでいる、しかし」
それでもと言うのだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ