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愚かな思想家
第二章

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「私は思うよ」
「そうですか、ですが気をつけて下さい」
 編集者は丸山に注意する様に囁いた。
「彼等は貴方を嫌っていますよ」
「何でもブルジョワと言っているね」
「そして暴力を肯定していますから」
「何をしてくるかわからないというのだね」
「はい、気をつけて下さい」 
 こう忠告した。
「くれぐれも」
「そうだね、しかし私がどうなっても学問は残るのだから」
「だからですか」
「そのことは安心しているよ」
「そうですか」
「うん、そのことはね」
 こう言うのだった、だが。
 編集者の危惧は当たった、何とだった。
 学生運動の暴徒達は丸山の研究室に押し入った、そして。
 丸山を捕らえた、そして口々に叫んだ。
「ブルジョワを捕まえたぞ!」
「制裁を加えろ!」
「容赦するな!」
「何をする!暴力は止め給え!」
 こう言うのだった。
「それが何になる!」
「黙れ!お前は敵だ!」
「ブルジョワだ!」
「暴力の何処が悪い!」
「ゲパルトアズホスブングだ!」
 暴徒達は口々に叫び捕えた丸山を散々引きずり回し。
 研究室の中を見回して叫んだ。
「ブルジョワの学問だ!」
「そんなものは許すな!」
「壊してしまえ!」
「こんなものは不要だ!」
 こう喚いてだった。
 主を追い出した研究室を徹底的に荒らした、丸山は何とか解放されてボロボロになりながらも己の研究室に戻ったが。
 徹底的に破壊された自分の研究室を見て言った、安田講堂は機動隊によって封鎖を解除され彼も戻ることが出来たが。
 貴重な資料もフィルムも破壊され本も散乱し破られてさえいた、書籍も文献も泥に汚れ床に散っていた。
 丸山はその一冊一冊を拾い上げて周りに言った。
「私の子供達と言ってもいい」
「ここにあるものはですね」
「全部そうですね」
「そう、ずっと一緒に学んできた」
 そうしたというのだ。
「子供達だった」
「そうでしたね」
「フィルムも本も」
「全部そうですね」
「建物は再建出来るよ」
 丹念に確かめて拾いながら話した。
「そちらは。けれど研究成果は」
「それはですか」
「そうはいかない。これは文化の破壊だ」
 押さえ切れな怒りを唇を震わせて出した。
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