第四章
[8]前話
「この喜びは男の人では味わえまへんで」
「そやからですか」
「女同士の喜び存分に楽しむことです。ええですね」
「わかりました」
「勿論旦那様も宏典さんも知ってますさかい」
「家のしきたりやからですね」
「何も言われまへんで。相手が男の人なら過ちですけど」
それでもというのだ。
「女の人やとそうなりまへんし。それに本朝では罪にはなりませんよって」
「そういえば」
綾香も言われてそのことに気付いた。
「日本では昔から」
「衆道がありますね」
「男の人同士でのことが」
「ほんまに普通でした」
「織田信長さんも嗜んでて」
「お公家さん達の間でも普通でした」
そうしたことはというのだ。
「そうですさかい」
「悪いと思うことなくですね」
「存分に楽しむことです」
「わかりました」
綾香は義母の言葉に頷いた、そうしてだった。
この日の夜も次の日の夜も夫がいない夜は家で働いている女達の伽を受けた。そして夫が帰るとだった。
義父に生き写しだがその義父よりも背の高い彼にこう言われた。
「僕が留守の間何かありましたか」
「いえ、何も」
綾香は夫に微笑んで答えた。
「ありませんでした」
「そうですか」
「はい、穏やかに過ごせました」
「夜もですね」
「何もありませんでした」
「それは何より。楽しみはりましたか」
「存分に」
その夜をというのだ。
「そうさせてもらいました」
「では今夜は」
「二人で」
「楽しく過ごしましょ」
夫は何も悪いことはないという笑顔で妻に応えた、そして妻もだった。
その夫を家に入れて夫婦で過ごした、その夜は夫と寝たが。
以後も夫がいない夜は家の女を部屋に入れて夜を過ごした、綾香はそうして鷹宮家の者となった。旧家の出来た嫁として知られる様になった。
旧家のしきたり 完
2020・10・13
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