番外編 とある受付嬢の懸想
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支えてくれていた、1人のハンター。
彼のようなハンターの助けになれるなら……と、厳しい先輩達の「指導」にも耐えて今に至る彼女の手には、ロノム村に関する書類があった。
そこには今、ミレーヌが懸想しているアダイト・クロスターの他にも、2人の上位ハンターが常駐しているらしい。その2人がここ――ドンドルマの大衆酒場に訪れた時のことを、ミレーヌは今でも覚えている。
(感じ悪かったなぁ……特に、あの高慢ちきな女の方)
高貴な身分の出なのだろうか、やけに気位の高い連中だった。双剣使いの女――クサンテ・ユベルブの方はひときわ、その傾向が強かったように思う。
確かに登録から短期間で上位に上がっているのだから、多少天狗になるのも無理はないのだが……それにしても、鼻につく。そんな彼女が今は、アダイトと共にロノム村にいるというのだから、余計に。
(猫の手も借りたいんだからって、上も異動も認めてくれないし……残業は終わらないし……はぁ)
せめて自分がロノム村の受付嬢になれれば、接点も増やせると思ったのだが。アダイトの派遣が決まってから間も無く、百竜夜行の兆候が確認されたために、その話も頓挫してしまった。
(……そうだ。あの2人……特にあの女を、派遣ハンターに入れてしまえば)
やがて。絶え間ない激務と嫉妬、そして焦りが悪魔となって彼女に囁いたのか。ミレーヌは思考が曖昧なまま、何かに誘われるように筆にインクを付け始めていく。
カムラの里に派遣する、ハンター達の名簿。その中に、クサンテの名前を書くために。
(あの性悪女だって、今は資金集めに躍起になってるって話じゃない。百竜夜行に対処したハンターになら、ギルドからの報酬も弾む。本人にとっても悪い話じゃないんだから、まさに一石二鳥よね)
クサンテをアダイトから引き離し、里ごと滅びる可能性すらある危険な地へと派遣する。その行為をひたすら脳内で正当化しながら、彼女は口角を吊り上げていた。
(これでアダイトさんは私の……私、だけの……)
しかし。インクを付けた筆を書面に乗せる直前。ミレーヌの手は、そこで止まってしまう。
「……はぁあぁ……」
「せ、先輩……? 大丈夫……ですか?」
「ちょっと……ミレーヌ、しっかりしなさいよ。大丈夫なの?」
我に返ったように筆を置いた彼女は、天井を仰ぎ深々とため息をついていた。その憔悴し切った様子に、周囲の同僚や仲の良い女ハンター達も、心配げな表情を浮かべている。
普段ならそんな友人達に向けて、心配ないよと笑顔で取り繕うところなのだが。人生最大の自己嫌悪に陥っている今のミレーヌには、その余裕すらない。
(……私、何してんだろ。こんなことして、アダイトさんが喜ぶわけないのに)
アダイトは底抜けに
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