第四章、その3の2:天運重なり
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めにされて笑いかけたのはアリッサだけの秘密である。追い詰められた棟梁が何をしようとしているか直ぐに分かってしまったからだ。
泰然自若として揺るがぬアリッサを照る光が雲に遮られて、そして次の瞬間には再び現れ、彼女の視界を光で潰す。
「っっっっ!!!」
棟梁はその機を逃さず一気に詰め寄り、引いた刃を彼女の前足に向かって斜めに振り下ろす。そしてそれを嘲笑うかのようにアリッサはすっと前足を引き、全身の膂力を振り絞り、至高の一振りを振り下ろす。
「っっおらぁぁっ!!!」
勇ましき裂帛が朝焼けを貫き、振りぬかれた棟梁の左手首を、ざっくりと切断した。慧卓の剣を握った男の手が落ち、棟梁は傷口を抑えて絶叫し始める。
「あああああっっっ、手があああああっ!!!」
「・・・他愛無いな」
アリッサは剣を鞘に収めると、慧卓の剣から要らぬものを剥ぎ取り、仲間の下へと戻ろうとする。ばっさりとした切断面からどくどくと流血しながら男はそれを見遣り、怨念を込めて懐からナイフを取り出して投擲しようと振り翳す。
その気はいたく露骨でアリッサにばればれの代物であり、彼女は振り向きながら剣を抜いてそれを防ごうとする。瞬間、後ろから飛来した矢が棟梁の喉元に深々と突き刺さった。
「っ!」
「げほっ、かはっ・・・」
男は己の喉が生んだ血池に倒れこみ、哀願するように弱った瞳を向けてくる。アリッサはそれに頸を振りながら後ろを向き、弓を射たユミルを咎めるように見遣った。
「勝敗は決まっていた。やらずともよかっただろうに」
「必要だった。手負いの獣は何をするかわからないからな」
「あれがそうと見えたのか?」
「俺には見えた。だから弓を射っただけの事」
「・・・貴方がそう感じてそうしたのであれば、私はこれ以上とやかくは言わないよ。何はともあれだ、無事で何よりだ。怪我は無いか?」
「ああ。だが俺より先にケイタクを診てやってくれ。頬を殴られたようだからな」
「っ!」
アリッサはそれを聞いて階段を駆け下りていく。残されたユミルは、未だ苦しんだままの棟梁の下へと近寄っていく。男からナイフを取り上げると、その頸の後ろへと刃を突き立てた。
「すまないな、苦しめるような真似をして。今楽にしてやる」
「じねっ・・・おまえらにんげんなんでぇっ、みんなじんじまえっ・・・」
呪詛を聞きながらユミルは一思いにナイフを一気に押し込んだ。刃が肉に埋まりこんで脊髄を容赦無く傷つける。その衝撃たるや男を失神させるのに充分過ぎるものであった。これで失血死するまで男は苦悶から解放される事であろう。
階下から起こる新たなかしがましさを聞き、ユミルはナイフをそのままに歩こうとして、建物の頂上にひらめく山賊の赤い旗に目をつけた。ユミルは弓に第二
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