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大阪の夜行さん
第一章

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                大阪の夜行さん
 大きな垂れ目で長い淡い茶色の髪を飾り付きのゴム紐で縛って左肩から垂らしている。優しい顔立ちはまだ十代に見えるが実は三十代も半ばだ。胸はかなり大きい。
 三木玲美は家に来た弟の拓也、大学に入ったばかりの彼に言った。彼は鹿児島の実家から神戸にある大学に入る為に大阪福島区にある姉夫婦の家に住むことになったのだ。それで姉が弟にこう言ってきた。
「夜行さんって知ってるわね」
「鹿児島の妖怪じゃない」 
 弟はすぐにこう返した、面長で姉と同じ垂れ目である。ただ背はかなり高くかつ引き締まった体格である。姉と同じ色の髪の毛を短くしている。
「それって」
「うん、何か夜行さんが近くに出るってね」
「ここ大阪だろ」
 弟は姉にこう返した。
「そうだろ」
「そうだけれど」
 大阪は大阪だがというのだ。
「けれどね」
「ここに出て来るってか」
「噂があるの」
「大晦日に出るよな、夜行さん」 
 拓也は玲美に返した。
「そうだよな」
「その大晦日にこの辺りにね」
「一つ目で顔が長い毛に覆われたな」
「それで首無し馬に乗ってね」
「出て来るのかよ」
「そう言われているけれど」
「嘘だろ」
 弟はまた言った。
「流石に」
「いや、それが大晦日の日にコンビニから万引きして逃げていた不良の子が夜行さんに出会って」
 首無し馬に乗ったこの妖怪にというのだ。
「それでね」
「馬に蹴り飛ばされてか」
「死んだらしいのよ」
「万引きした奴は自業自得だな」
「そうね、それでね」
「その話からか」
「その不良の子のお顔が馬に蹴られたみたいにひしゃげていたから」
 それでというのだ。
「そうしたお話になってるの」
「大晦日に馬か」
「この辺りにお馬さんなんていないし」
「今時街中で馬もないしな」
「誰かがこれは夜行さんの仕業って言って」
 そうした話が出てというのだ。
「言われているの」
「そうなんだな」
「だから大晦日にその不良の子が死んだ道にはね」
「誰も行かないんだな」
「その夜はね」
 大晦日、十二月三十一日のこの夜はというのだ。
「そうなっているの」
「成程な」
「それでね」
 玲美は弟にさらに話した。
「若しその道を大晦日の夜通ることになったら」
「気をつけろか」
「夜行さんにはどうすればいいか知ってるでしょ」
「草履、靴を頭に伏せて地面に伏せていればいいだろ」
 拓也は地元に伝わるその話をした。
「そうだろ」
「道の端にね」
「時代劇の平伏の姿勢でな」
「拓ちゃんも気をつけてね」
 姉は弟に注意する様に言った。
「そうしてね」
「大阪に出るのかよ」
「それが出るらしいから」
 だからだというのだ。
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