休日の茶会
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
辞する。毎回毎回、それの繰り返しだった。
「・・いい加減、ベアトリクスと呼んで下さらないのかしら?」
「・・よろしいのですか?」
ティーカップを口から話して宙に浮かせたまま、ポツリと呟くように言ったのをアルブレヒトは聞き逃さず、聞き返した。だがそれと同時に、本来は聞こえていないふりをするべきところだったかもしれないという後悔に迫られた。案外、彼は地獄耳であったのだ。
「・・冗談よ、冗談。もっと大人になってからよね」
ベアトリクスは「ごめんあそばせ」とでも言いたげな表情で微笑んで返した。舌に残る紅茶の味が苦く思えたのは彼女だけだった。
「やっと、笑ったか・・」
アルブレヒトはベアトリクスの笑顔を見て安堵したように、テーブルの上で無聊をかこっている冷めかけの紅茶に手を伸ばし、口を付ける前にそう呟いた。ただ、それは余りにも小さく、茶色の水面に波を作るだけであった。
紅茶が冷めかけでも旨く思えたのは、単に気苦労からの解放や茶葉や淹れ方の良さというわけでもない様にアルブレヒトは思った。どこか不思議な感じだった。漠然としながら、そう思っていた。
そしてそれから三十分ほど時が流れると、彼女の机の上にあるTV電話が鳴った。ベアトリクスが出ると、数度会話が聞こえ、彼女はアルブレヒトの方を向いた。
「アルブレヒト、貴方に代わって欲しいですって」
「・・私に?わかりました」
ベアトリクスの言葉に応じたアルブレヒトは椅子から立ち上がり、机に近づいた。
「お久しぶりです。伯父上」
「あ、ああ、久しぶりだな、アルブレヒト」
「伯父上?どうしたのです?」
「実はだな・・」
TV電話の画面にいたのは伯父だった。今は軍務で忙しい筈である。アルブレヒトが疑問に思って尋ねると伯父は言いかけて口を噤んだ。その仕草がさらに彼の中の疑念をさらに大きくさせた。
この伯父は言うことは言う、厳格だが理解心もある、信頼できる人物だった。その伯父が言葉を紡げないでいる。まるで何かに怯えているようだった。その光景を見たベアトリクスの背中を何かが駆け抜けた。汗が流れ、雪のように白い背中を濡らす。無意識に白く柔らかな両手を握りしめた。
「アルベルトとマリアが倒れたのだ。・・直ぐに、軍病院に来てくれ。私も直ぐに向かう」
画面の前に立つ男は信じたくないという表情を隠さないまま告げた。事態を告げるその声の弱弱しさが、アルブレヒトの耳朶を殴るように打った。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ