迷い
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帝国歴四六三年の秋。アルブレヒトがオーディンに生まれてから7年と半年が過ぎた。その間、彼はすくすくと育ち、両親を喜ばせ、安堵させた。彼の生まれたデューラー家は、両親と一人息子という典型的な核家族だった。
父、アルベルト・フォン・デューラーは武門の家柄である伯爵家から、その分家であるこのデューラー家の養子としてやってきた男である。後継ぎが相次いで戦死したためだ。彼は現在、皇帝の住まいである新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)の周辺に並び立つ官庁街の一角にある軍務省人事局で軍官僚として働いている。階級は少佐。家風通り引きしまった体つきだが、性格と表情は柔らかい。
母、マリア・フォン・デューラーは中の下の帝国騎士の家の次女で数年前に結婚した。アルベルトの実母が反対したが、アルベルトとその兄が協力して母親を説得し、今に至った。家計が厳しかったこともあり、マリアは家事の一通りを覚えている。使用人を雇う必要も無かったので、これにアルベルトは喜んだ。他人の入り得ない二人だけの幸せな空間を得られたのだから。
アルブレヒトの出産に立ち会ったアルベルトの兄は士官学校を主席で卒業してから帝国軍に入隊し、着々と武勲を上げている士官だそうだ。元は次男坊で会ったが、長兄が幼き頃に病死しているので、彼が実質の当主である。アルブレヒトからすれば伯父にあたる人物だ。
自分の部屋のベッドの上で、アルブレヒトは寝ころんで頭を悩ませていた。夕食、入浴を終え、後は寝るだけである。
生まれたての頃アルブレヒトは、兎に角、身の回りの出来事一つ一つに驚いていた。“銀河帝国”“フリードリヒ四世”“自由惑星同盟と僭称する叛乱軍”“大神オーディン”など、時折聞く名前は聞き覚えがあった。風景もかつて自分が見たものとはまるで違う。
彼の頭には所謂“前世の記憶”というものが残っていた。今の体に転生したというよりは憑依の形に近いのかもしれないが、そこに拘ると収拾がつかないので自らそう割り切ることとした。
彼のライトグリーンの瞳にはもう驚きの色はないが、戸惑いのそれは確かに残っていた。自分が生きた世はどうなっていたのか、最後は、友は、父母は。それらが最初、彼の脳裏を慌しく駆け抜けた。生まれた時から続いた夜泣きは単に空服や不快の為ではない。
幾つかの葛藤の末、彼は体の成長に合わせて子供としてふるまうことを決めた。埃を被り、記憶の蔵の中で惰眠を貪っていた高校時代の家庭科の知識を総動員して成長過程を偽装した。ただ、それの心苦しさを知るのは本人ばかりである。六歳になると、ある程度の制約は消えた。その夜、彼は密かに袖を濡らしたのである。
「さて、これからどうしたものかな・・」
溜息と共にアルブレヒトは呟くが、答える者は誰もいない。
彼の頭には、在る程度の未来図が描かれていた。黄金の獅子が帝国
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