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幻の月は空に輝く
日向宅訪問・2
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華の声のトーンは、いつもよりも低い。

「大丈夫だよ」

 人に聞かれたら困るから、囁くようにしながら天華に言葉を返した。
 でも、不機嫌そうな雰囲気は収まらなくてどうしたものかと頭を悩ませようとした矢先に、ネジの足音が廊下に響く。
 いつもだったら足音なんてさせないんだろうけど、今は感情的になっていて音を消せなかったんだと思う。
 開け放たれた出入り口に立つネジの右手には飲み物がのったお盆。左手には箱。匂いから察するにお薬の箱だなぁ、なんて眺めてたら。

「すまない」

 と、相変わらず子供らしくない言葉が聞こえた。
 感情的になっていても、それを素直に表に出せないネジはやっぱり不器用な子供だと思う。
 眉尻を下げて申し訳なさそうに、私の右手首の傷に消毒液をかけて、包帯を巻いていくネジ。その表情から何を考えているかなんてわからないんだけどね。

「気にするな。今回の発端は俺だ」

 気まずそうに私から視線を逸らすネジを真っ直ぐに見つめ、私は首を軽く横に振る。本当なら、ネジはこんなに早くに事実を知る予定じゃなかった。それを早めたのは間違いなく私で、ネジが落ち着くならこの程度の傷は当たり前……なんだけど、どうやらネジはまったく納得がいかないらしい。


「ランはどうして……いや、なんでもない」

 何かを言いたげに顔を上げたけど、視線が混じる事なくネジは私の手首の治療を続ける。

「……ネジ」

「………」

「ネジ」

 私の右手首の治療を終わらせたネジは、相変わらず私と視線を合わせようとしない。照れくさいけど、ここは覚悟を決めて私はゆっくりと口を開いた。

「俺は、嫌がられても近くにいる」

 ヒアシには言ったけど、ネジには言ってない言葉。
 聞いてただろうけど、それでももう一度言ってみた。

 するとネジは弾けるように顔を上げて、瞬く事も忘れたようにジッと私を凝視すると、特徴的な白眼の白い瞳に、銀の髪と蒼い瞳を持つ私の姿が映る。
 
 うーん……未だにこの姿にはちょっと慣れないなぁ、なんて。

 雰囲気を無視するような事をふと思いながら、私はネジの言葉を待っていた。



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