episode12『銀色の鬼』
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えないところにこれほど汚れが溜まっているとは、気付かなかったな、なんて、どうでもいいことに気を逸らして思考を紛らわせる。
足が竦みそうだった、心が挫けそうだった。
それでも、かつてのように泣き喚くようなことは不思議と無かった。勿論、今すぐにでも泣き出したい気持ちはある、逃げ出したい気持ちだってある、でも、そうはしない。何故そうしなかったのか、といえばよく自分でもよく分からない。
ただ。
――今度こそ、家族を守りたいな、と思った。
聖堂の、裏手口の前に辿り着く。
この扉を開ければ、運命が決まる。ここに居るのが護衛の製鉄師たちか、或いはこの海外の製鉄師が言う“依頼主”なのか。
「……かみさま」
ドアノブを握って、開く。
ヒナミはもう、ただ神に祈る事しかできなかった。
智代が子供たちに言って聞かせているように、神様がこの世全ての人達を見守ってくれていると言うのなら、どうか。
私の事を。
皆の事を。
――助けてください。
――。
「――ぁ」
扉が、開いた。
びゅう、と鋭い寒さを伴った風が吹く。年の暮れに例外なく日本へやってくる冷気は当然ながら今も例外ではなく、聖堂の中は冷え込んでいた。
荒くなる呼吸に伴って、白い息がヒナミの口から漏れた。
そう、聖堂はまるで外と同じくらいにまで冷え込んでいたのだ。仮にも屋内だ、魔鉄技術による大型暖房だって聖堂には設置されているのだから、ここまで冷え込むのは異常といえる。
原因は、すぐに分かった。
「……あぁ、ようやく見つけたぜ」
聖堂正面の大扉は、その周囲の壁ごとまるごと消失していたのだ。いわば聖堂は吹き曝しの状態、外の外気から内側を隔離するものが何一つない。当然冷気だって聖堂内に直接入ってくるだろう。
だが、周囲の光景はこの寒さに見合わないものだった。
炎だ。
炎の渦が、聖堂中に広がって黒煙を上げている。流石に距離が離れているここまで熱気こそは届かないが、焦げ臭い匂いが当たり一帯に充満していた。
聖堂にあった来客用の長椅子も大半が燃えて炭化している、この様子では孤児院のスペースに引火して燃え広がるのも時間の問題だ。
「あ、ぁ……ぁ」
知っている。
宮真ヒナミという少女は、この地獄の光景を知っている。
この地獄を作り出した者が、今目の前に居る男だと知っている。
「ひ、あ」
――“初めまして、だったか?名乗ろう、宮真ヒナミ。俺の……この世全てを燃やし尽くす男の、名は”――
「――スルトル・ギガンツ・ムスペル。今度こそ、俺の炎を灯す君を迎えに来た……ってな」
―――――――――――
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