雪空の噴水
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だろうが、その顔を知るハルトは彼女を天才の一言で片付けることができなかった。
やがて、少女とハルトの目が合う。彼女は少しハルトを見た後、こういった。
「それでは皆さん。そろそろ最後の曲にさせてください」
すると、観衆から残念がる声が聞こえてきた。
少女は構わず続ける。
「それでは聞いてください」
そうして、彼女の最後の演奏が始まった。
演奏終了。
拍手が終わった後、観衆たちはそれぞれ名残惜しそうに少女のもとから離れていく。残っているのがハルト一人になるのに、さほど時間はかからなかった。
「何? あたしに何か用?」
少女はバイオリンを収納しながら、ハルトに尋ねる。
ハルトは何を言っていいか分からず、ただ黙っていた。
「まあ、大体見当はつくよ? でもごめんね。あたしも最近ここで演奏始めたばかりだから」
「いや、別にお客さんを得る方法を聞いているわけじゃないんだよ。……さやかちゃん」
「あれ? 違った?」
少女、美樹さやかはとぼけた表情で言った。
青いボブカットの見滝原中学の制服の彼女は、そのままバイオリンケースを肩にかけた。
「まあいいや。それじゃ、何の用?」
「……別に用があったわけじゃないんだけど……」
ハルトはさやかから目を反らした。
するとさやかは、ハルトの視界に敢えて回り込んできた。
「ねえ。あたしのこと、いろいろ気にしている?」
「……まあね」
「へえ。年上の人に気にかけてもらえるなんて。このさやかちゃんにも、とうとう春が巡ってきたかな?」
うんうんとさやかは頷いて、ハルトにペコリと頭を下げた。
「でもごめんなさい。あたし、好きな人がいるので」
「……人生で初めてフラれたのに、あまり傷つかないな」
「ええ? 残念だなあ」
さやかはそういいながら、収納したギターケースを眺める。
「君の……そのバイオリン……」
「恭介のだよ」
この一週間強、忘れたことのない名前の一つだった。
その名前の人物が、ハルトの前に怪物となってしまったのは、ハルトには新しい。
そして、さやか自身も。
「恭介の親に相談したら、譲ってくれたんだ。形見として、あたしに持っていてほしいって」
「……」
「ねえ、そろそろ言いたいこと言えば?」
さやかはハルトの目をじっと見つめていた。それは、どことなく深海のように冷たいものでもあった。
「はっきり言いなよ。ファントムのあたしを信用できないって」
「……」
ハルトは思わず目を背けた。だが、さやかはまだ続ける。
「あんたとファントムの間柄は良く知ってるよ? この前キュゥべえから色々教えてもらったからね」
「! あの後接触したのか…
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