雪空の噴水
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「へっくし!」
くしゃみをして、松菜ハルトはマフラーを強く閉める。最近安く購入したマフラーは、防寒性に優れているとは言い辛く、十二月初頭の公園には少し不十分に思えた。
「あ……」
今ので、お手玉は失敗。
地面に転がる玉を拾い上げながら、ハルトはため息をついた。
冷えた空気に、吐息が白くなる。
「え、ええっと……さあ、お急ぎでない方はどうぞよってらっしゃい見てらっしゃい!」
苦手な寒さだが、ハルトは努めて声を張り上げた。
噴水がトレードマークの見滝原公園。
寒さが厳しくなってきたとはいえ、休日の昼間は、そこを行き交う人通りも多い。ハルトは彼らへ続けた。
「本日は、こちら! よっ! ほっ!」
両手に持った球で、お手玉を始める。
それほど珍しくもない芸に、足を止める人はさほどいない。
「続きまして。よっ!」
ハルトは続いて、あらかじめ地面に置いたボールに飛び乗る。安定しない足場の上で、五個の玉を同時に投げ回していた。
バランス感覚と難易度。今度は、多少の注目が集まった。
「まだまだ! 続きましては!」
ハルトはポケットの中から棒を取り出す。顔を上げて、それを鼻の先に乗せた。
「いざ! 名付けて天狗の玉乗り!」
体を一切動かさずに、腕だけで玉投げを続ける。今度は、ぽつぽつと拍手の音が聞こえた。
「よし。続きましては……」
今度は片足で。そうしようと右足を曲げた直後、左足がボールから滑る。
「うわっ!」
ハルトの足元が、雪で滑る。冷たい地面に勢いよくしりもちをつき、「痛っ!」と口に出してしまった。
「あ……あはは……」
それにより、パフォーマンスは失敗。足を止めていた人たちも、暗い表情で歩み去っていった。
「今日は調子悪いな……もう切り上げようかな……?」
凍える手で、広げた私物を回収し始める。
すでに十二月にも慣れている。ここ最近積もり始めた雪にも、あまり新鮮味を感じなくなっていた。
「それにしても、あっちはすごいな……」
ハルトの羨望の眼差しは、すぐ近くの、噴水近くの人だかりに向けられていた。
バイオリンの音色。ストリートライブというものだろうか。
「ちょっと聞いてみよう」
ハルトは片付け終えて、人だかりへ向かう。
「すごい……天才じゃないのか?」
そんな声を耳にしながら、ハルトは人だかりから、見分ける場所を探す。だが、美しいバイオリンの音色は確かに耳に響いてきた。
「あれは……」
ようやく顔を出したハルトは、演奏者に絶句した。
それは、少女だった。ハルトよりも幼い、小さな少女。彼女を知らぬものならば、それを天才と称する
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