第一章
[2]次話
亡国の兆し
この時天下は不穏な状況であった。
元寇の後幕府の力は弱まっておりしかも時の執権は政をおろそかにし遊興に興じていると言われていた。
世には悪党と言われる者達が蔓延り無頼の有様だった。
その状況を見て朝廷を眉を曇らせていたが。
ただ火土地後醍醐帝だけはこれは機会かとほくそ笑んでおられた、その状況を見て足利尊氏は天下を憂いてた。
それで弟の直義に言った。
「少し天下泰平を願いにな」
「それで、ですか」
「古都の寺社に参ろうか」
こう言うのだった、その面長で黒い髭が目立っている顔で。
「そうしようか」
「執権様に申し上げてもですか」
「どうも届かぬしな、わしの領地はどうかなっても」
それでもというのだ。
「天下を見るとな」
「どうしてもですな」
「乱れだしておる、ここでじゃ」
「天下の泰平を願えばですか」
「まだ収まるやも知れぬ」
弟のその丸くかつ鋭い目が目立つ顔を見つつ述べた。
「だからな」
「そうですか、では」
「これよりな」
「奈良の方にですか」
「行こうか」
「それでは」
直義もよしとした、こうしてだった。
尊氏は弟そして主な周りの者達を連れて奈良に赴きそこの多くの神仏に天下泰平を祈った、そしてだった。
その後でだ、こう言ったのだった。
「天武帝がおられた吉野にもな」
「行かれますか」
「奈良に入ったのじゃ」
それならというのだ。
「同じ大和であるしな」
「吉野にも入られ」
「そこでもな」
「天下の泰平をですか」
「願おう」
こう言うのだった。
「是非な」
「そうされますか、しかし」
弟は兄に怪訝な顔で話した。
「同じ大和といいましても」
「吉野まで遠いか」
「はい、相当なものですが」
「それはわかっておるがな」
それでもとだ、尊氏は弟に述べた。
「やはりな」
「天下の乱れが気になるので」
「ここでは」
「吉野でもですか」
「願いたい」
「そうですか、では」
「三輪や長谷寺でも願うしな」
吉野に向かう途中でもというのだ。
「そして橿原でもな」
「願われますか」
「天下が乱れるとな」
そうなればというのだ。
「かつての源平の時の様になれば」
「その時は、ですな」
「多くの血が流れるな」
「はい」
それはとだ、直義も答えた。
「再びあの様になれば」
「本朝の戦は武士同士のもの、民に禍は然程及ばぬが」
「多くの血が流れることは」
「やはり忌むべきことじゃ」
だからだというのだ。
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